魔法より、君に恋をする。

 昼休み。

 珍しく七人が同じ場所に集まった。

 場所は、レオンハルトがよく使っている中庭の奥だった。

「ここ、全員で来ると秘密の場所感なくなりますね」

 リリアが言う。

「僕もちょうどそう思っていたところだよ」

「嫌?」

「少しだけ」

「じゃあ帰る?」

「君は残って」

「私だけ?」

「そういうこと言うから嫌われんだぞ、王子」

 アレンが呆れた声を出す。

「君に好かれようとは思ってないから大丈夫だよ」

「俺もだよ」

「仲良いですね」

「どこが!?」

 アレンだけが大きな声を出した。

 セシルが笑い、カイルは木にもたれている。ルシアンは少し離れたベンチに腰を下ろし、ノアはリリアの隣。

 こうして見ると、妙な組み合わせだ。

「話していい?」

 リリアが尋ねる。

「どうぞ」

 ルシアンが答えた。

 昨夜のことを最初から説明する。

 方位磁針の針が狂ったこと。

 王都の外を指したこと。

 突然熱を持ったこと。

 黒い亀裂のような光。

 そして。

「私、黒い月って言った」

 その瞬間。

 空気が変わった。

 アレンが目を伏せる。

 カイルの表情が硬くなる。

 ルシアンからも笑みが消えた。

 ノアは朝と同じ顔をしている。

 そしてレオンハルトだけが、彼らを見る。

「……やっぱり知っているんですね」

 誰も答えない。

「昨日の続きになりそうだね」

 レオンハルトは穏やかだった。

「黒い月とは何ですか?」

「僕から話す」

 ノアだった。

 リリアが隣を見る。

「いいの?」

「昨日約束したから」

 ノアは一度、ほかの三人を見た。

「話していい?」

 カイルが頷く。

 アレンも何も言わない。

 ルシアンは少し考えたあと、口を開いた。

「全部はまだ駄目だ」

「分かってる」

「でも、存在については話していい」

「うん」

 セシルが静かに聞いている。

 ノアは膝の上で指を組んだ。

「僕たちは以前、黒い月を見たことがある」

「以前?」

 リリアが聞く。

「うん」

「いつ?」

「それはまだ言えない」

「どうして?」

「説明するには、ほかの人の過去まで話すことになるから」

 昨日の言葉を思い出す。

 自分だけの秘密ではない。

 リリアは頷いた。

「分かった」

 ノアが少しだけ安堵したように息を吐く。

「黒い月が出たあと、よくないことが起きた」

「どれくらい?」

「……すごく」

 その声だけで、聞かない方がいいこともあるのだと分かった。

「昨日私が見たのも同じ?」

「分からない」

「でも似てる?」

「話を聞く限りは」

 セシルが口を開いた。

「黒い月って、本当に月が黒くなるんですか?」

「そうだった」

 答えたのはカイルだった。

「月そのものが?」

「ああ」

「魔法現象?」

「分からない」

「誰かが起こしてる?」

「それも」

 セシルは少し考え込む。

「じゃあ、今分かってるのは『前にもあった』だけなんですね」

「そうなる」

 ルシアンが答えた。

「だったら、前と同じになるって決めない方がいいですね」

 ノアがセシルを見る。

「……え?」

「だって、今回もう違うことが起きてるんでしょ?」

「どうしてそう思うの?」

「十三本目」

 セシルは当たり前のように答えた。

「ルシアン先輩が、前にはなかったって言ったから」

「……」

「それに」

 セシルはリリアを見る。

「今ここに私がいる」

 リリアが瞬いた。

「セシル?」

「私は皆さんが何を知ってるのか知らない。でも少なくとも、私はその『前』を知りません」

 セシルの灰青の瞳はまっすぐだった。

「だから同じかどうかも知らないし、同じになる理由も分からない」

「怖くない?」

 ノアが尋ねた。

「怖いですよ」

 セシルは笑った。

「昨日リリアに変な声が聞こえたって聞いた時も、普通に怖かったです」

「普通に」

「でも、怖いからって結末まで決めつけるのは違うかなって」

 ノアはしばらく何も言わなかった。

「……強いね、セシル」

「剣なら」

「そういう意味じゃないんだけどな」

 リリアはセシルの袖を引いた。

「何?」

「ありがとう」

「私、何かした?」

「分からない。でも言いたくなった」

「……そっか」

 セシルが柔らかく笑った。

「どういたしまして」

 ノアも、その横で小さく笑っていた。