魔法より、君に恋をする。

放課後の合同訓練は、昨日よりさらに難易度が上がった。

 今日は単純な討伐ではない。

「中央の結晶を守りながら、相手側の結晶を破壊する」

 ルシアンが訓練場の中央に置かれた青い結晶を示す。

「実戦祭でも似た形式が出る可能性がある。つまり、敵を全部倒せばいいわけじゃない」

「壊せば勝ち?」

 リリアが聞く。

「相手の結晶をね」

「簡単」

「その発言、十秒後に後悔しないといいね」

「しません」

 三分後。

「ずるい!」

 リリアの声が演習場に響いた。

「だから言っただろう?」

 高台のルシアンが楽しそうに答える。

 敵役の自動人形をすべて吹き飛ばした隙に、別の一体が地面の下を通って自陣の結晶を割ったのである。

「地面通るなんて聞いてない!」

「実戦で敵が全部教えてくれると思う?」

「思わない」

「じゃあ二戦目」

「今度は絶対壊させない」

「目的変わってない?」

「勝つ」

「それならいい」

 二戦目。

 リリアが前へ出ようとしたところで、セシルが袖を掴んだ。

「待って」

「何?」

「今度は私が前に行く」

「セシルが?」

「うん。リリアは中央」

「守る方?」

「嫌?」

「ちょっと」

「顔に出てる」

「前行きたい」

「でもリリアなら、中央から全体に魔法届くでしょ?」

「届く」

「だったら一回やってみよう」

 リリアは少し考えた。

「分かった」

「素直」

「セシルが言うなら」

「……そういうの」

「何?」

「あとで話す」

「最近みんなあとでが多い」

 セシルは笑って、剣を抜いた。

「じゃあちゃんと帰ってきたら話すよ」

「絶対?」

「絶対」

 その言葉を残して、セシルが走る。

 リリアは中央に立った。

 前方にアレンとカイル。

 左右にノアとセシル。

 少し後ろにレオンハルト。

「リリア」

「はい」

「僕が全体を見る。君は結晶と、届く範囲の援護を」

「了解」

「退屈?」

「ちょっと」

「我慢して」

「はい」

 レオンハルトが笑った。

「いい子だね」

「子供じゃないです」

「知ってるよ」

 戦闘開始の鐘が鳴る。

 今度は、リリアは動かなかった。

 代わりに見る。

 アレンが前を切り開く。

 カイルがその横を塞ぐ。

 ノアが死角へ入り、セシルが敵の防御を崩す。

 レオンハルトの声が飛ぶ。

「右から二体!」

「見えてる!」

「アレン、一体残して!」

「分かった!」

「ノア、左!」

「了解!」

 リリアのところまで来る敵は少ない。

 だからこそ、全体がよく見えた。

「……すごい」

 昨日まで、自分が前へ出ていたから気づかなかった。

 みんな、強い。

 知っていたはずなのに。

 六人で動いている姿を見ると、また違って見える。

「リリア、上!」

 レオンハルトの声。

「うん!」

 空から三体。

 杖を上げる。

 今度は誰もリリアの前へ来ない。

「《光槍》」

 三本の光が空を走り、正確に核を撃ち抜いた。

「さすが」

 レオンハルトの声が聞こえる。

「レオン先輩、後ろ!」

「分かってる」

 振り向きざまに金色の魔法陣が展開される。

 攻撃を受け止める。

 そこへリリアが光弾を放つ。

「ありがとう」

「どういたしまして」

 目が合う。

 一瞬だけ。

 レオンハルトが笑った。

 胸の奥が、少しだけ跳ねた。

 けれど考える暇はない。

「セシル!」

「うん!」

 遠くから声が返る。

「右、空いてる!」

「分かった!」

 セシルが駆ける。

 リリアの魔法が敵の足を止め、その横を銀の剣が抜けていく。

 ノアが最後の防御を崩す。

「アレン先輩!」

「任せろ!」

 炎が爆ぜた。

 敵陣の結晶が露出する。

「クロフォード先輩!」

「ああ」

 カイルの剣が振り下ろされた。

 青い結晶が砕ける。

『第十三部隊、勝利』

 訓練場にルシアンの声が響いた。

「勝った!」

 リリアが思わず両手を上げる。

 遠くにいたセシルが笑う。

 ノアがこちらへ走ってくる。

「リリア!」

「ノア?」

「やったね!」

 そのまま勢いよく手を上げたので、リリアも合わせた。

 ぱん、と掌が鳴る。

「何それ」

「ハイタッチ」

「知ってる」

「じゃあ聞かないでよ」

「なんでやるのかなって」

「嬉しいから」

「なるほど」

 今度はリリアからセシルへ手を上げる。

「セシルも」

「私も?」

「うん」

 セシルが笑って掌を合わせた。

「やったね」

「うん」

 そのままアレンのところへ行く。

「アレン先輩」

「何だよ」

「手」

「は?」

「勝ったから」

「……」

「早く」

「お前な」

 文句を言いながらも、アレンは手を上げた。

 ぱん。

「次」

「全員やんのかよ」

「やる」

 カイル。

「クロフォード先輩」

「……何だ」

「見てたでしょ」

「……」

「手」

 カイルはしばらくリリアを見下ろしていたが、やがて諦めたように片手を上げた。

 ぱん。

「弱い」

「何がだ」

「もっと強くていい」

「必要ない」

「もう一回」

「しない」

「けち」

「次に行け」

「はい」

 最後。

「レオン先輩」

 レオンハルトはすでに笑っていた。

「僕も?」

「全員だから」

「光栄だな」

 手を上げる。

 リリアも手を伸ばした。

 ぱん。

 掌が触れる。

 離れるはずだった。

 けれど、レオンハルトの指がほんの少しだけ動いた。

 一瞬、リリアの指先へ触れる。

 すぐに離れた。

「……?」

「ごめん」

「何が?」

「何でもない」

「またそれ」

「癖になりそうだ」

 レオンハルトは笑った。

 けれど、その笑顔には、少しだけ寂しさが混じっていた。