魔法より、君に恋をする。

その夜。

 ノアは寮の自室で一人、窓辺に座っていた。

 机の上には、教科書も課題も開かれていない。

 月だけが見える。

「見つけた、か」

 小さく呟く。

 知らない声。

 リリアにしか聞こえなかった声。

 それだけなら、まだいい。

 けれど。

 黒い羽。

 十二本の線。

 十三本目。

 嫌なほど、昔の感覚が戻ってくる。

 世界が壊れる前には、いつも小さな異常があった。

 最初は誰も気にしない。

 偶然だと思う。

 そのうち数が増える。

 そして。

「……やめよう」

 ノアは自分で思考を切った。

 今回は違う。

 違う世界だ。

 違う時間だ。

 何より。

 今のリリアは、まだ笑っている。

『一人で全部見なくていい』

 今日、彼女はそういう戦い方を覚えた。

 なら、自分も同じなのかもしれない。

 全部を一人で抱えて、誰にも言わずに笑って、最後に死ねばいい。

 そんなやり方を。

 もう選ばなくてもいいのかもしれない。

 ノアは立ち上がった。

 机へ向かう。

 紙を一枚取り出す。

 少し迷ってから、短い文章を書いた。

『明日の朝、話したいことがある。リリアにはまだ内緒で』

 宛先は三人。

 カイル。

 アレン。

 そして、ルシアン。

 書き終えてから、ノアは紙を見つめた。

「……僕も成長したかな」

 返事をする者はいない。

 窓の外では、春の月が静かに学院を照らしていた。

 明日もまた、リリアに会える。

 その当たり前を。

 今度こそ、当たり前のまま守りたい。