魔法より、君に恋をする。

その日の訓練は、昨日よりずっと静かに始まった。

 理由は簡単だった。

「レオン先輩、次どっち?」

「左から来る。アレン、少し下がって」

「分かった」

「……素直」

 リリアが呟く。

「聞こえてんぞ」

「昨日はいっぱい喧嘩してたから」

「今日はしてねえ」

「成長した」

「お前に言われると腹立つな」

「なんで?」

「知らねえよ!」

「アレン、右が空いてる」

 カイルが言う。

「分かってる!」

「分かってないから言った」

「やっぱてめえとは無理!」

「喧嘩した」

 リリアが言う。

「してねえ!」

「したね」

 ノアが笑う。

「してない」

 カイルは真顔だった。

「クロフォード先輩、ちょっと楽しんでない?」

「気のせいだ」

 その口元が、ごくわずかに緩んでいる。

「笑ってる」

「笑ってない」

「笑ってるよ」

「前を見ろ」

「誤魔化した」

「リリア、上!」

 セシルの声に、リリアはすぐ空を見た。

 三体。

「私やる」

「一体もらうよ」

「じゃあ二体」

 魔法陣が展開される。

 一体をリリアの光が撃ち抜き、もう一体を追尾魔法が捉える。

 三体目。

 セシルが跳ぶ。

 剣が核を断ち切った。

「綺麗」

 着地したセシルが振り返る。

「魔法が?」

「セシル」

「……今それ言う?」

「格好よかった」

「戦闘中だよ」

「もう倒した」

「まだ後ろにいる」

「え?」

 振り返る。

 魔法弾。

 避けるより先に、金色の障壁が二人を包んだ。

「二人とも」

 少し離れたところからレオンハルトが苦笑している。

「戦場で見つめ合うのは、全部終わってからにしようか」

「見つめ合ってないです」

 リリアが答える。

「そうかな」

「セシルを見てただけ」

「リリア」

 セシルが片手で顔を覆った。

「もう喋らないで」

「なんで?」

「集中できなくなるから」

「魔法弾来てるよ」

「誰のせいだと思ってるの」

 その横を赤い炎が走り、残っていた魔法獣をまとめて吹き飛ばした。

「ったく」

 アレンが肩に剣を担ぐ。

「戦闘中にいちゃつくな」

「いちゃついてない」

「そういうところだぞ」

「何が?」

「もういい」

 ノアが腹を抱えて笑っている。

「ノア、笑ってないで右」

「はいはい」

 昨日より、動ける。

 声が聞こえる。

 誰がどこにいるのか、少しずつ分かるようになってきた。

 アレンの炎が上がれば、カイルがその死角を埋める。

 カイルが敵を止めれば、セシルが最短距離で核を狙う。

 ノアは誰かが気づくより早く穴を埋め、レオンハルトは全員の位置を見ながら指示を飛ばす。

 その間を、リリアが自由に動く。

 昨日までなら、六人の強さがそれぞれ別々に存在していた。

 今日は少しだけ違う。

「楽しい」

 リリアが呟いた。

「余裕あるな、お前!」

 アレンが叫ぶ。

「ある!」

「なら左全部やれ!」

「いいよ!」

「本当にやるなよ! 二体だけ寄越せ!」

「どっち?」

「二体寄越せっつってんだろ!」

「欲張り」

「お前に言われたくねえ!」

 リリアは笑った。