魔法より、君に恋をする。

翌朝。

「眠い」

 リリアは机に頬をつけたまま呟いた。

「珍しいね」

 隣からセシルの声がする。

「昨日、早く寝なかったの?」

「寝た」

「何時?」

「十一時」

「普通だね」

「でも眠い」

「じゃあ朝ご飯は?」

「食べた」

「体調悪い?」

「元気」

「ただ眠いだけかあ」

「うん」

 セシルが困ったように笑い、リリアの銀髪を一房だけ指先で避けた。机と頬の間に挟まっていたらしい。

「一限、魔法史だよ。寝ないでね」

「頑張る」

「自信なさそう」

「魔法史、先生の声が眠い」

「先生に聞かれたら怒られるよ」

「大丈夫。いない」

「そういう問題じゃないかな」

 反対側の席では、ノアが教科書を開いていた。

「僕、起こしてあげようか?」

「どうやって?」

「耳元で愛を囁く」

「セシルに頼む」

「即答!?」

「セシルなら普通に起こしてくれそう」

「起こすよ」

「ほら」

「僕だって普通にも起こせるよ」

「最初からそう言って」

 ノアが不満そうに頬杖をついた。

「リリアって、僕の扱いだけ雑じゃない?」

「同級生だから」

「セシルも同級生だよ」

「ノアだから」

「それ理由になってる?」

「なってる」

「ひどいなあ」

 そう言いながら笑っているので、本気で嫌がってはいないのだろう。

 リリアは目を閉じかけて、ふと思い出した。

「そういえば」

「うん?」

「昨日の六体目、どうなったかな」

 ノアの指が止まった。

 セシルもリリアを見る。

「ルシアン先輩が調べるって言ってたやつ?」

「うん。今日話してくれるって」

「合同訓練の時かな」

「たぶん」

「気になる?」

「気になる」

 リリアはようやく身体を起こした。

「普通の魔法獣とちょっと違ったから」

「違った?」

 セシルが聞く。

「魔力の感じ。出てくる前から分かった」

「それは昨日も言ってたね」

「うん。でも、何ていうか……」

 言葉を探す。

「新しく作られた感じがしなかった」

「どういう意味?」

「分からない」

「そこは分からないんだ」

「感覚だから」

 ノアが教科書を閉じた。

「古かった?」

「それとも違う」

「じゃあ、懐かしい?」

 リリアはノアを見た。

 青い瞳がこちらを見ている。

「……懐かしい?」

「例えばね」

「分からない」

 少し考えてみる。

 懐かしい。

 そう言われると、何かが胸の奥に引っかかった。

 けれど、それが何なのかは掴めない。

「嫌な感じはした」

「そっか」

 ノアはそれ以上聞かなかった。

 ちょうど教師が入ってきて、教室のざわめきが収まる。

 リリアは前を向いた。

 その横でノアが一瞬だけ伏せた目を、リリアは見ていなかった。