魔法より、君に恋をする。

西棟の食堂は、本当に小さかった。

 大食堂ほど騒がしくなく、窓際の席から中庭が見える。

「好きなの選んで」

「ルシアン先輩は?」

「珈琲」

「昨日もそれ言ってた」

「今日はサンドイッチも食べるよ」

「ちゃんと食べるんですね」

「僕を何だと思ってるの?」

「珈琲で生きてる人」

「否定しづらいな」

 リリアは鶏肉と野菜のサンドイッチ、それから小さな苺のタルトを選んだ。

「やっぱり苺」

「ありました」

「嬉しそうだね」

「はい」

 向かい合って座る。

 昨日は研究塔で魔法陣を挟んでいた。

 今日は昼食。

 それだけで、ルシアンの印象が少し違って見えた。

「先輩」

「うん?」

「生徒会長じゃなかったら、何してたと思います?」

 ルシアンが目を瞬く。

「急だね」

「普通のこと知りたいって言ったから」

「そうだった」

 彼は珈琲を一口飲んだ。

「研究かな」

「結局魔法?」

「好きなんだよ」

「意外」

「なぜ?」

「仕事でやってるのかと思ってた」

「僕にも好き嫌いくらいあるよ」

「嫌いなものは?」

「予定外のこと」

「私?」

 ルシアンが止まる。

「どうしてそうなるの?」

「私、予定外っぽいから」

「……」

「違う?」

 しばらく沈黙してから、ルシアンは小さく笑った。

「そうだね。君はかなり予定外だ」

「じゃあ嫌い?」

「逆」

 即答だった。

「今は、予定外の方が面白いと思ってる」

「変わったんですね」

「誰のせいだろうね」

「知らない」

「君だよ」

 リリアはタルトを一口食べた。

「おいしい」

「聞いてないな」

「聞いてます」

「ならいいけど」

 ルシアンもサンドイッチへ手を伸ばした。

「リリア」

「はい」

「昨日のことなんだけど」

「十二回?」

「……覚えてたか」

「大事そうだったから」

「そうだね」

 ルシアンの声が少しだけ低くなる。

「君が言ったことは、まだ誰にも話さないでほしい」

「なんで?」

「確証がないから」

「クロフォード先輩にも?」

「彼には僕から話す」

「アレン先輩は?」

「まだ」

「レオン先輩」

「まだ」

「ノア」

 一瞬。

 ほんの一瞬だけ。

 ルシアンの目が変わった。

「……まだ」

 リリアはそれを見逃さなかった。

「ノアだけ間があった」

「そう?」

「ありました」

「気のせいだよ」

「嘘」

 ルシアンは黙る。

「先輩」

「何?」

「私、前より先輩の嘘分かるようになりました」

「困ったな」

「嬉しくない?」

「半分は嬉しいよ」

「残りは?」

「非常に困る」

「じゃあもっと分かるようになります」

「宣戦布告?」

「目標」

 ルシアンは苦笑した。

「本当に予定外だ」