魔法より、君に恋をする。

休日が終わった。

 月曜日の朝、リリアはいつもより少し早く教室へ着いた。

「……珍しい」

 教室に入った瞬間、ノアが言った。

「おはようより先にそれ?」

「おはよう、リリア。珍しいね」

「言い直しても失礼」

 リリアは鞄を机へ置いた。

「今日は迷わなかった」

「えらい」

「子ども扱いしないで」

「じゃあ、どうして早いの?」

「昨日いっぱい歩いたから、早く寝た」

「ああ」

 ノアが意味ありげに笑う。

「楽しかった?」

「うん」

 即答した。

「すごく」

「そっか」

 ノアの笑顔は変わらなかった。

 けれど、ほんの少しだけ目が細くなる。

「セシルと何したの?」

「買い物して、ご飯食べて、服見て、丘に行った」

「へえ。ちゃんとデートしてる」

「デート?」

 リリアは首を傾げる。

「友達と二人で遊んだだけだけど」

「本人にそれ言わない方がいいよ」

「なんで?」

「僕が殺されるから」

「セシルはそんなことしない」

「そういう意味じゃないんだけどなあ」

 その時、教室の扉が開いた。

「おはよう、リリア」

「おはよう、セシル」

 振り返ったリリアが笑う。

 セシルは一瞬だけ足を止めた。

「……朝から機嫌いいね」

「昨日楽しかったから」

「っ」

 ノアが机に肘をつき、頬杖をついた。

「僕、今ちょっと帰りたい」

「来たばっかりでしょ」

「精神的に疲れた」

「寝不足?」

「君のせい」

「私、昨日ノアと会ってない」

「そこから説明しないとだめかあ」

 セシルが小さく笑った。

「ノア、頑張って」

「他人事みたいに言うけど、君も相当だよ」

「何が?」

「似た者同士だなあって」

「私とセシル?」

「そこじゃない」

 二人揃って首を傾げる。

 ノアはとうとう机へ突っ伏した。

「もういい」

「朝から変」

「誰のせいだと思ってるの」

 リリアは答えず、鞄の中を探った。

「あ、セシル」

「うん?」

「昨日の栞、使った?」

「使ったよ」

「早い」

「昨日帰ってから本に挟んだ」

「見せて」

 セシルは鞄から一冊の本を取り出した。

 銀色の小さな剣を模した栞が、ページの間から覗いている。

「ちゃんと使ってる」

「約束したからね」

「大事に使うって」

「うん」

「なくさないでね」

「なくさないよ」

 セシルは栞に指を触れた。

「絶対に」

 その言い方が思ったより真剣で、リリアは少しだけ目を瞬いた。

 けれど、嫌ではなかった。