魔法より、君に恋をする。

入学から一週間も経たないうちに生徒会室へ呼び出される新入生は、おそらくそう多くない。

 ましてや、呼び出した本人が生徒会長ともなればなおさらだ。

「……私、何かした?」

「心当たりが多すぎるんじゃない?」

「ないけど」

「魔晶石」

「あれは事故」

「授業で教科書の術式を書き換えた」

「間違ってたから」

「昨日、剣術部の体験会で二年生と揉めたって噂も聞いたよ」

「揉めてない。アレン先輩と話しただけ」

「一週間経ってないのに濃いなあ」

 放課後の教室で、ノアは生徒会から届いた呼び出し状をひらひらと振りながら笑っていた。

 白い紙の中央には、《本日放課後、生徒会室へ来るように》と端正な文字で記されている。理由については一切書かれていない。

 リリアは自分の席に座ったまま、少し不満そうにその紙を眺めた。

「ノクス先輩、初日からちょっと怪しかったんだよね」

「へえ。どの辺が?」

「私を見て『やっと』って言いかけた」

 ノアの指が止まった。

 ほんの一瞬だったので、リリアは気づかなかった。

「それで聞いたら、言ってないって」

「会長が?」

「うん」

「聞き間違いじゃなくて?」

「ノアまで同じこと言うの?」

「だって会長、そういう失言するタイプに見えないから」

「だから怪しいの」

 リリアは立ち上がると鞄を持った。

「とりあえず行ってくる」

「一人で?」

「……」

 教室の出口へ向かおうとしていた足が止まる。

 ノアは笑顔のまま待っている。

「生徒会室ってどこ?」

「ほら」

「まだ何も言ってない」

「顔に書いてあるよ」

「書いてない」

「北棟の三階。中央階段を上がって、二つ目の渡り廊下を左」

「分かった」

「本当に?」

「たぶん」

「その返事で送り出せると思う?」

 ノアが立ち上がろうとしたところで、教室の扉が開いた。

「リリア、まだいる?」

 顔を覗かせたのはセシルだった。

 剣術部の仮入部を終えたばかりなのか、肩には細長い剣袋を提げている。短い藍色の髪が少し汗で額に張りついていて、普段よりもいくらか幼く見えた。

「今から生徒会室」

「何したんだ?」

「セシルまでそれ言うの?」

「だってお前だし」

「私を何だと思ってるの」

「魔晶石を破壊した入学首席」

「一個だけ」

「一個でも普通は壊さない」

 反論できない。

 セシルは呼び出し状を見ると、当然のようにリリアの隣へ並んだ。

「送ってくよ」

「場所分かる?」

「少なくともお前よりは」

「じゃあお願い」

 ノアが不満そうに二人を見る。

「最近、セシルに僕の役目取られてない?」

「何の役目?」

「リリアを目的地まで届ける係」

「そんな係作った覚えないけど」

「じゃあ今作ろう」

「いらない」

「即答だ」

 笑うノアを残し、リリアとセシルは教室を出た。