魔法より、君に恋をする。

昼食は、セシルが調べていたカフェへ入った。

 大通りから少し離れた店で、窓辺には春の花が飾られている。

「ここ、人気なんでしょ?」

「うん。休日は並ぶこともあるみたい」

「調べたの?」

「せっかくだから」

「楽しみにしてた?」

「……してたよ」

「私も」

 向かい合って座る。

 メニューを開く。

「苺ある」

「本当に好きだね」

「好き」

「じゃあデザート頼もうか」

「セシルは?」

「私はチョコかな」

「覚えとく」

「何を?」

「好きなもの」

 セシルの目が少しだけ柔らかくなる。

「リリアって、そういうところあるよね」

「どういう?」

「何でもない」

「また」

「そのうち分かるよ」

「最近そればっかり」

 食事をしながら、学院の話をした。

 授業のこと。

 剣術部のこと。

 ノアが教師に怒られたこと。

 アレンが食堂で一年生と揉めていたこと。

 レオンハルトが女子生徒に囲まれて身動きが取れなくなっていたこと。

 ルシアンが書類の山を見て珍しく嫌そうな顔をしていたこと。

 カイルが猫に餌をやっていたこと。

 特別な話は何もしていない。

 それなのに、時間が過ぎるのが早かった。

「楽しい」

 リリアがぽつりと言う。

「うん?」

「今日」

「……うん」

「セシルと二人で出かけるの、楽しい」

 セシルは手にしていたカップを静かに置いた。

「私もだよ」

「また来よう」

「うん」

「今度は黒いワンピース着る」

「覚えてたんだ」

「約束したから」

「約束まではしてないと思うけど」

「じゃあ今約束する」

 リリアは小指を出した。

「何それ」

「約束」

「子どもみたい」

「嫌ならいい」

「嫌とは言ってないよ」

 セシルが小指を絡める。

 たったそれだけの触れ合いなのに、手を繋いで歩くより妙に意識してしまう。

「約束」

「うん」

 指が離れる。

 セシルは自分の手を見た。

 告白しようと思えば、できる。

 好きだと伝えてしまえばいい。

 リリアは女同士だからという理由で拒絶はしないと言ってくれた。

 それでも、今は言いたくなかった。

 彼女はまだ、自分の気持ちを探している途中だ。

 誰かに答えを求められたから選ぶのではなく、自分で好きになりたいと言った。

 だから待つ。

 今度は、自分が待つ番だ。