魔法より、君に恋をする。

生徒会室を出る頃には、夕方になっていた。

「寮まで送る」

 カイルが当然のように言う。

「今日は迷わないですよ」

「雨だ」

「傘あります」

「誰のだ」

「セシル」

「……」

「またその顔」

「何も言っていない」

「顔が言ってる」

「何を」

「分からない」

「なら言ってないのと同じだ」

「ずるい」

 外へ出る。

 雨は昼より少し強くなっていた。

 リリアが傘を開く。

 大きい。

 二人でも入れそうだった。

「クロフォード先輩、傘は?」

「ある」

「どこ?」

「教室」

「取りに戻る?」

「いや。この程度ならいい」

「濡れるでしょ」

「問題ない」

 リリアは傘をカイルの方へ差し出した。

「入って」

「……」

「大きいから」

「アルヴェインのだろう」

「傘は傘です」

「そういう問題か?」

「そういう問題です」

 カイルはしばらく傘を見たあと、諦めたようにリリアの隣へ入った。

 近い。

 肩が触れそうになる。

「先輩、もう少しこっち」

「狭い」

「私が濡れる」

 カイルがすぐに寄った。

「そこは即座なんですね」

「風邪を引くだろ」

「先輩も」

「俺はいい」

「良くない」

 リリアは傘を中央へ戻した。

「一緒に無傷が一番いいです」

 言ってから、少し笑う。

「昨日も似たようなこと言った気がする」

「誰に」

「アレン」

 カイルが黙った。

「また不機嫌」

「違う」

「分かりやすい」

「お前にだけは言われたくない」

 雨音が傘を叩く。

 二人で歩く。

 いつもより距離が近い。

 でも、不思議と気まずくはなかった。

「クロフォード先輩」

「何だ」

「私、先輩のこと全然知らないですね」

「急だな」

「今日思った」

「何を知りたい」

 予想していなかった返事だった。

「教えてくれるんですか?」

「話せることなら」

「好きな食べ物」

「……そこからか」

「大事です」

「特にない」

「一番困る答え」

「肉」

「雑」

「魚よりは肉だ」

「甘いものは?」

「食べる」

「苺のタルトは?」

「嫌いじゃない」

「じゃあ今度食べます?」

 カイルの足が止まりかけた。

「俺と?」

「今クロフォード先輩の話してるので」

「……そうだな」

「嫌?」

「いや」

「じゃあ今度」

「ああ」

 少しだけ沈黙する。

「リリア」

「はい」

 また名前だった。

 今度は指摘しなかった。

「お前は、俺のことを知りたいのか」

「はい」

「なぜ」

 リリアは少し考えた。

 黒い石のことを知っているから。

 自分の知らない何かを知っているから。

 最初は、きっとそれだけだった。

 でも今は。

「クロフォード先輩だから」

「……」

「秘密とは関係なく、普通に知りたい」

 隣から返事がない。

 見上げる。

 カイルは前を向いていた。

「先輩?」

「……そうか」

「嬉しい?」

「なぜそう思う」

「ちょっと笑った」

「笑ってない」

「笑った」

「見間違いだ」

「猫の時も笑ってました」

「忘れろ」

「嫌です」

「本当にそればかりだな」

「覚えてたいので」

 カイルがこちらを見る。

「……そういうことを、簡単に言うな」

「また?」

「ああ」

「じゃあ言いません」

「……それも困る」

「どっち?」

「知らん」

 リリアは笑った。

 カイルも、今度は否定できない程度には笑った。