母国の恋人を想いながらも、嫁いだ敵国の王に溺愛されてしまいました

 後日、バハロ王国は会談した隣国テイルズと同盟を結んだ。カレイズ王国との戦に備えての事だった。

 月のものがある日以外は、ローズはユーベルトに抱かれた。なにも言わないが、優しい愛撫と労りがどこか切ない。
 ユーベルトと結婚して一年が過ぎようとしていた。
 彼はローズの頬に手を当て思い詰めたように囁く。

「君を愛しても良いだろうか?」

 ローズの鼓動がドキリと脈打つ。ローズは困惑する。ユーベルトと濃密な関係を一年も続けるうちに、いつのまにか絆されている自分に気づく。

「……お好きなようになさって下さい」

 気づいた時には、ローズは小さく答えていた。

「君を愛さない自信があったのにな。いつのまにか支えてくれる君の事が好きになっていた。いや、その前から俺は君に溺れてしまっていた」

 身体を繋げたままそう言うと、緩やかに出し入れを始め、やがて激しくなる。そうなると、ローズは何も考えられなくなる。


 それから三月後にローズの懐妊が判明した。それをユーベルトが大層喜んでいた。

「でかしたな。これからは、身体を労ってくれ」

 病人でもないのに、ユーベルトは安定期に入るまで大人しく寝ていろ、と寝台で寝かされる。過保護なまでに大切にされ、ローズは呆れた。懐妊が判明してからは、ユーベルトは自重してローズを抱かなくなった。まだ膨らまない腹に幾度も耳を当てて聞くのだ。

「名前は何にしようか?」

「性別も分からないうちから決めてどうするんですか?」

「それもそうだな」

 ハハっ、と笑う。彼の笑顔を初めて見た。
 そんな平穏な日々が過ぎた三ヶ月後、カレイズ王国がバハロ王国へ攻めてきたのだ。その兵の数は七万。
 早々にバハロ王国は、戦の支度をさせつつ、同盟したテイルズに援軍を要請した。全面戦争だ。

 武具を纏い、自ら指揮をする為、ユーベルトは戦場に出向く。

「ご武運をお祈りしております」

 感情の篭らない声で言うと、ユーベルトにしばし抱きしめられた。彼は馬上の人となり大軍を率いて王都を発った。ローズは軍師を始めとした重臣らが集まる部屋で、軍議が行われているのを聞いていた。そこへ伝令が矢継ぎ早に駆け込んで戦況の報告をしにくる。
 バハロ王国軍は総勢八万の兵で、テイルズから四万の援軍が駆けつけていた。当初は優勢であったのだが、日を追う毎に雲行きが怪しくなっていた。

「申し上げますっ! カレイズ軍の圧倒的な数に押されてます」

「どういうことだ。数ではこちらが優っていたはずだろう」

「申し上げますっ!」

「今度は何だっ!」

「セヘラが裏切りカレイズと共に攻めてきています」

「予測通りだな。で、セヘラの数は?」

「五万ですっ! 圧倒的な数で押されていますっ!」

 その日を境に、カレイズとセヘラの同盟軍が王都へと徐々に迫りつつあった。
 バハロとテイルズの同盟軍は数を減らし、遂に王都の目前まで迫ってくる。

「申し上げますっ! 我が軍は王都まで攻め込まれています。このままでは、王都も陥落しかねません」

 一同が青ざめ、重臣達がローズを注視しる。

「ここは、王妃様だけでもお逃げ下さい。陛下の寝室に隠し通路がございます」

「申し上げますっ! 王都の城壁が破られ、敵が攻めてきますっ」

「こんな短時間でっ!? 王妃様、お急ぎをっ」

 重臣達に促されながら、ローズは護衛に囲まれて、国王の居室を目指す。移動中、窓外で火の手が上がっているのが見えた。
 遠くの方から断末魔の叫び声が聞こえてきた。それが徐々に近づいてくる。

 国王の居間に入った時、ローズを護っていた護衛が血を流して倒れた。その先には、全身漆黒の騎士が、両手剣を血で濡らして立っていた。その顔は、日焼けして浅黒く、男らしく精悍で凛々しい。二年ぶりに見るルビオ・イーオスがそこにいた。
 
「……る、ビオ」

「お迎えに参りました。ローズ様」