母国の恋人を想いながらも、嫁いだ敵国の王に溺愛されてしまいました

 急に王妃として扱われるようになったローズは、当初こそ戸惑ったが、すぐに王妃としての役割りを完璧にこなした。ただ一つ、ローズは近隣諸国の言語が堪能なことは、敢えて隠して通訳が正しく訳しているかを、厳しく聞き耳を立ていた。

 そんなある時、バハロ王国の西側に隣接するセヘラ王国との同盟に向けた会談に、ユーベルトと出席した。同盟の話はスムーズに進み、調印がなされた。その後は食事会となり、その前にローズは閑所へ向かった。廊下の角を曲がる手前でセヘラ語が聞こえてきた。咄嗟に手前の壁に張り付いた。付き従う護衛にも同じく身を隠すように命じる。耳を澄ませて話を盗み聞く。
 話終わったところで、ローズは護衛達と何食わぬ顔で廊下の角を曲がる。向かってきていたセヘラの外交官に視線を向けて微笑みかけた。セヘラの二人の外交官も穏やかな笑みを湛えて、壁際によって一礼する。

 セヘラの外交官が帰った後で議会が行われた。

「これでカレイズとの戦の折には援軍を要請できますな」

「それはどうでしょう。会食の前に、セヘラは『カレイズに恩を売れる』とセヘラ語で話してましたわよ」

「君はセヘラ語が分かるのか?」

 ユーベルトが驚いたように質してきた。

「カレイズに隣接する五ヶ国語を習得しています」

「で、君はどこの国の味方なんだ」

 そう聞かれて初めて、困惑する。

「陛下が死なれるのは見たくありません」

 それが今のローズの正直な答えだった。一度はユーベルトの命を狙ったというのに、いつの間にか情が移っている事に気付かされる。

「もう一度聞くが、セヘラの外交官は『カレイズに恩を売れる』と言っていたのは、誠なのだな」

「はい。それは間違いありません」

「セヘラは裏切る気だな。他にカレイズと敵対しているテイルズと同盟を組む検討をするべきだな」

「早速、書簡を作成させましょう」

「頼む」

 宰相のモスクが提案し、ユーベルトの許可を得て退室していく。

「助かった。感謝する」

「いえ」

 ローズは静かに答えた。
 自分の気持ちが分からない。セヘラの外交官の話を盗み聞きしたことをユーベルトに話さなければ、バハロ王国を陥れることが出来るかもしれない。そうすれば、バハロ王国はカレイズ王国に乗っ取られるだろう。
 憎いと思ってきたユーベルトが窮地に立たされる。それを今のローズは受け入れられなかった。