母国の恋人を想いながらも、嫁いだ敵国の王に溺愛されてしまいました

 ローズは幼い頃から厳しい英才教育に后教育を受けてきた。国の繁栄の為に他国の王族に嫁ぐ為だ。近隣諸国の五ヶ国語を堪能に話せる。それまでの道のりは決して楽なものではなかった。くじけそうになる度、厳しい教育のあまり幼い頃は何度も泣いていた。
 年を取るにつれ、第一王女としての自覚を持ち、父の命令の為に必死で励んで従ってきた。十八歳で成人し、結婚適齢期になると、求婚相手は山のように来るようになった。皆、ローズの美貌に目がくらみ妻にしようと、好条件を出して躍起になっているようだった。

 そこで父であるカレイズ国王が目を付けたのが、バハロ王国国王のユーベルトだった。前妻が病で亡くなったのは、絶好の機会だった。ローズとの婚姻を持ちかけたら、和睦の条件にすぐに了承が得られた。子のない国王であるユーベルトを暗殺できれば、バハロ王国はカレイズ王国のものになる手筈だった。だがその野望は潰えた。
 
 カレイズ王国にいた頃は、ローズは従順な王女だった。だが、内面は気が強く負けず嫌いで活発な性格だ。
 武人でもあるユーベルトに、すぐに太刀打ちできないと判断した。大人しく幽閉されている事が我慢ならず、脱走を考えた。暗殺未遂が失敗に終わった以上、これ以上バハロ王国にいる理由はない。昨夜、暗殺時に使った短剣を探したがどこにもなかった。
 脱走しようにも、扉には鍵がかけられ、廊下には衛兵がいる。ローズがいる国王の寝室は、十階で高すぎて窓から逃げ出せない。どうしたものかと、寝台の端に座って思案していると、窓の外が次第に暗くなり始める。そこへ、扉が叩かれる。

「お食事をお持ちしました」

 ガチャリと鍵が開けられる音がして、扉が開かれる。食事を乗せたトレイを手に、侍女が入ってくる。
 扉付近に置かれている丸いテーブルに置く。その隙にローズは侍女に近づき、背後から侍女の腕を掴もうとした。だが、とっさに腕を引いた侍女にかわされ、同時に手首を掴まれたローズが腕をひねり上げられる。

「くっ」と、痛みで呻く。

「奥方様、大人しくお食事をお召し上がりください」

 冷酷な目で淡々と告げられて、背後に突き飛ばされる。相当腕が立つ侍女だ。

「わたくしの服ぐらい持ってきなさい」
「陛下より奥方様のお召し物は不要と命じられております」

 あっさり言い切られ、悔しさに歯噛みしている間に、侍女は一礼をして部屋から出て行く。そして、部屋の外からきっちりと鍵をかけて行った。

 凶器になるものはないかと、運ばれてきた食事のトレイを見たが、スプーンもフォークもない。乗っていたのは水が入ったコップとパン、深めの皿に入れられたスープだけだった。どうやら手で食べろということらしい。
 空腹だったローズは、諦めて椅子に座って食事を取る。スープは無論、ちぎったパンを浸して優雅に食べる。
 お腹が満たされたところで、部屋は暗くなり、月明かりが射し込んできた薄暗い部屋の中、寝台の端に腰を掛けて考え込む。
 
 逃げ出す隙が全く無い。
 先刻の侍女が食事を運んできた時に、手を出そうとして逆に痛めつけられた。更に警戒を強められることだろう。
 さて、どうしたものか。
 うだうだと思い悩んでいる間に月が高く昇り、部屋の鍵が開けられる。
 振りかえって明るい廊下から入ってきた人物を見ると、背の高い男で、顔は影になって見えない。
 護衛の手ですぐに扉は閉ざされ、再び鍵がかけられる。