母国の恋人を想いながらも、嫁いだ敵国の王に溺愛されてしまいました

「忘れないで、わたくしが死んでも貴方への愛は永遠よ」

 全身漆黒の武装をしている騎士の胸に、ローズは抱きついた。長身で体格が大きく筋肉質の胸板が厚い。髪も目も黒く日に焼けた浅黒い顔は、男らしく精悍で凛々しい。

「生きて下さい。例え暗殺が失敗しても、命乞いをしてでも生きながらえて下さい。そうすれば、いつか私が必ずお迎えに参ります。我がカレイズ王は、私にお約束して下さいました。バハロ王ユーベルトを倒し、我が国が征服したあかつきには、ローズ姫との結婚を許してくださる、と」

「では、待っているわ。バハロ王を倒し、必ずわたくしを迎えに来てね、約束よ、ルビオ」

「お約束いたします。必ず、必ずお迎えに参上致します」

 黒騎士のルビオが屈み、二人は唇を重ねた。


 ローズは目覚めると、見ていた夢を思い出した。それは、母国を発つ前日に愛する人との最後の逢瀬だった。
 カレイズ王国精鋭騎士団長にして最強の騎士ルビオ・イーオス。初めての出会いは、十年前の事だった。七歳年上のルビオが、王室近衛隊のローズ付き護衛騎士に選任されたのだ。ローズの一目惚れだった。まだ十歳になったばかりのローズは、何かと彼を傍に置いた。
 だが、五年後、ルビオは実力を認められて、王国軍最強精鋭部隊への配属が決まった。近衛としての最後の日、ローズは思い切って好きだと告白した。それに対してルビオもローズへの愛の告白をしてくれた。
 許されない身分違いの恋だった。それでも二人は人目を避けて逢瀬を重ねて、口づけだけを交わして愛を育んできた。そこへ入ってきたローズのバハロ王との婚姻。いずれ国の駒として他国へ嫁がされる運命である事は承知していた。それでも、ルビオと引き裂かれる運命は苦しいほど悲しい。
 王女として生まれたからには、従わなければならない。ルビオへの熱い恋情を秘めて、愛する事のない男のものにされるのだ。そんなローズに、ルビオはいつか迎えに行くと、約束してくれた。
 その約束を思い出すと、ローズは顔を上げた。

(ルビオが必ず迎えにきてくれる)

 自分に言い聞かせると強くなれた。
 気持ちが前向きになったところで、開け放たれた窓外に視線を向けた。早朝なのか夕刻なのか判別できない暗さだった。
 広い部屋は、昨夜初めて入ったユーベルトの寝室だ。大人が六人ほど横になれるような天蓋付きの、広めの寝台に横になっていた。
 シーツも身体も寝ている間に清潔にされたようで、汚れていなかった。上体を起こすと、散々犯された身体が軋むように痛んだ。全裸の彼女は何か身につけようとしたが、部屋にあったのは透けるほど薄いナイトドレスだけだった。

 とりあえず、ナイトドレスを着てシーツを剝いで身体に巻きつけると、窓外を見に行く。目の前には薄雲が漂う空が見え、眼下は城下町が広がり、真下は十階ぐらいはありそうな高さと地面が見えた。周囲を衛兵が歩いている。唯一の扉のノブに手をかけて、ガチャガチャと回してみたが開かない。   
   
「あなたは陛下暗殺未遂で幽閉されています。ここからお出しすることはできません」

 扉の外から男の声が聞こえてきて告げた。見張りの衛兵だろう。

「何か着るものぐらい用意しなさい」
「あなたの言葉に耳を傾けぬよう命じられております」
「寝衣でいろというの?」

 衛兵はその質問には答えなかった。
 溜め息を吐くと、諦めて寝台に戻る。
 暗殺が失敗に終わったことが、母国の父王に知られたら、また戦争をしかける計画がされるだろう。暗殺を失敗したローズは、野心家で冷酷な王にとって、ただの駒でしかない。生きていれば、バハロ王の首を取った家臣に下賜される事が決まっていた。それが愛するルビオなのだ。昨夜はユーベルトに犯される激しい嫌悪で、直ぐに殺せと言ってしまった。だが、ルビオとの約束を思い出し、何としても生き抜こうと決めた。殺されかけたユーベルトはどういうつもりなのか、ローズを殺す気がないようだ。ならば、生きれるだけ生きるだけだ。