制御不能な恋

アパートの外から響く怒号のようなシャッター音と、執拗に鳴り響くインターホン。絶体絶命の暗闇の中で、颯太のスマホが震えた。画面に映ったのは、リーダーのレオからの着信だった。「颯太、今どこにいる。……佐々木さんのところか」「……ああ。俺、アイドル辞めるよ。彩夏をこれ以上巻き込めない」「馬鹿言うな」レオの声は、いつになく力強く、怒りさえ孕んでいた。『お前一人で泥をかぶって終わらせるために、俺たちがここまで協力してきたと思ってんの? 高城マネージャーや上層部には、もう俺たち4人で話をつけてきた。今から公式YouTubeで生配信の緊急記者会見を開く。お前もそこからスマホで繋げ。……5人で『マゼアオ』だろ。勝手に降りるなんて絶対に許さないからな』電話が切れると同時に、ハクから一本のURLが送られてきた。『マゼアオ緊急生配信会見』。開始からわずか1分で、同接数は数十万人に膨れ上がっている。画面の向こうには、神妙な面持ちで並ぶレオ、ナオ、ハク、レンの4人の姿があった。『ファンの皆様、そして関係者の皆様。本日の報道について、僕たちから真実をお話しします』リーダーのレオがマイクを取り、毅然とした態度でカメラを見据えた。『青野颯太が一般女性の方と真剣に交際していること、そして、その彼女の家へ通っていたことは、すべて事実です。……そして、それを隠し、手助けしていたのは、ここにいる僕たち4人です』記者席から一斉にどよめきが起こる。ナオがマイクを引き継いだ。『颯太は、完璧なアイドルを求められる中で、心が折れかけていました。彼を人間として救い、もう一度ステージに立つ力をくれたのが、彼女なんです。彼女は颯太を利用しようとしたわけじゃない。僕たちが、颯太を救ってくれた彼女にお願いして、彼を匿ってもらっていました』『そうです!』レンが涙目で訴えかける。『彼女がいたから、今日の武道館ライブは大成功したんです! メンバーの恩人を、悪者みたいに書くのは絶対に許せません!』ハクが冷静に、だけど強い口調で締めくくった。『僕たちは、青野颯太の選択を、そして彼の恋を全力で支持します。もし彼を解雇にするというなら、僕たち4人も『マゼアオ』を辞める覚悟です』数万人のコメント欄が激しく流れる。バッシングの声は、徐々にメンバーの熱い絆と、颯太の人間らしい一面を知ったファンの「颯太くんを辞めさせないで」「4人の絆に泣いた」という感動の渦へと変わっていった。「みんな……何やってんだよ、あいつら……」画面を見つめる颯太の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。彩夏もまた、メンバーたちの命がけの優しさに声をあげて泣いていた。『――おい、颯太。繋がってるんだろ。お前の口から、ちゃんとファンに伝えろ』画面の向こうからレオが呼びかける。颯太は涙を拭うと、カメラに向かって自分のスマホを掲げた。画面の向こうの数百万人、そしてアパートを囲む報道陣に向けて、彼は彩夏の手をしっかりと、誰の目にも明らかなほど強く握りしめて見せた。「ファンの皆、裏切るような形になって本当にごめん。……でも、俺はこの人を愛してる。彼女がいない俺の歌なんて、何の意味もないんだ。俺は、彼女を幸せにしながら、これからもマゼアオのセンターとして命がけで歌い続ける。どうか、俺たちの我儘を……俺たちの進む新しい道を、見ていてほしい」それは、日本の芸能界の歴史を塗り替える、前代未聞の「公開恋人宣言」だった。