ライブは大成功に終わり、武道館を揺るがした熱気はいまだ冷めやらぬままだった。メンバーの手引きで一足先にアパートへ戻っていた彩夏は、胸の高鳴りを抑えきれずにいた。テレビでは早くも『マゼアオ武道館ライブ、大成功!』とニュースが流れている。ステージの上で、自分だけに秘密の合図をくれた王子の姿を思い出し、頬が熱くなる。その時、スマホが激しく震えた。画面に表示されたのは、あの高城マネージャーの名前。嫌な予感がして、恐る恐る通話ボタンを押す。『……佐々木彩夏さんですね』いつもの焦った様子とは違う、低く、冷徹な声だった。『今すぐ、お宅のテレビでネットの芸能ニュースを見てください。一分でも早く』心臓がドサリと重い音を立てた。言われるがままにスマホで大手芸能裏サイトを開いた瞬間、彩夏は息を吸うことさえ忘れた。【独占スクープ】マゼアオセンター青野颯太、一般女性と熱愛同居か!? 武道館ライブ直前の「楽屋密会」撮った!そこには、ハクに案内されて関係者口に入る彩夏の姿や、楽屋のドアが開いた一瞬、衣装姿の颯太が彩夏の手を強く握りしめている写真が、鮮明に掲載されていた。さらに、連日メンバーがカモフラージュのために彩夏のアパートに出入りしていた写真まで並び、『メンバー総出で組織的隠蔽か』と最悪の書かれ方をしていた。『これで、青野颯太のアイドル人生は終わりです。他のメンバー4人も連帯責任で無期限の活動休止、あるいは解雇になるでしょうね。……すべて、あなたのせいです』高城の冷酷な言葉が、容赦なく彩夏の心を突き刺す。自分のせいで、颯太の未来だけでなく、あの優しいメンバーたちの人生まで全て破壊してしまった。涙が溢れ、視界が歪む。「私が……私が、彼の前から消えれば、みんな助かりますか……?」彩夏が声を絞り出すと、高城は冷たく『今すぐ荷物をまとめてその部屋を出てください。違約金等の請求は追って連絡します』と言い放ち、電話を切った。パニックと罪悪感で頭がおかしくなりそうになりながら、彩夏は引き出しから大きなバッグを取り出し、泣きながら服を詰め込み始めた。早く消えなきゃ。私がここにいたら、颯太くんが壊れてしまう。「何してるの」背後から、聞き慣れた、だけど今までにないほど張り詰めた声が響いた。振り返ると、そこには息を切らせた颯太が立っていた。衣装のまま、上着だけを羽織って事務所の静止を振り切って走ってきたのだろう。「颯太くん……っ、ダメだよ、来ちゃ! ニュース、見た……? 私のせいで、みんなの人生が……」「知ってるよ。事務所は大騒ぎだし、ハクたちも上に呼び出されてる」颯太は一歩、また一歩と、泣きじゃくる彩夏に近づいていく。その瞳には、絶望ではなく、見たこともないほど深く、強固な決意の炎が宿っていた。「だったら、なんでここに来るの!? もう私に関わらないで、お願いだから……!」彩夏がバッグを抱きしめて叫んだ瞬間、颯太は彼女をバッグごと、壊れそうなほど強く、激しく抱きしめた。「逃げるな! 俺が、行く手を阻むもの全部ぶっ壊してやるから、俺から逃げようとするな!」「でも、あなたの夢が……!」「俺の夢は、お前と一緒に生きることだ! アイドルなんて、お前がいない世界なら、いつでも辞めてやる!」颯太の叫びが、狭い部屋に響き渡る。それは、世間を欺き、すべてを失う覚悟を決めた、アイドルの、いや、一人の男の「制御不能な暴走」だった。その時、アパートの下から、大勢の報道陣やパパラッチの怒号のような騒ぎ声が聞こえ始めた。ついに、この隠れ家が完全に包囲されたのだ。万事休す。キャリアの終わり、そして世界中を敵に回す最大の危機が、二人の目の前に迫っていた――。
