数日後の夜、彩夏の小さなワンルームは、テレビの特番でも見られないような贅沢な空間に変わっていた。「狭い部屋で悪いな。……ほら、残りの二人も入れよ」颯太がドアを開けると、そこには『マゼアオ』の残りのメンバー、サブリーダーでクールなハクと、ムードメーカーのレンが立っていた。これでメンバー5人全員が、彩夏の部屋に集結したことになる。「わあ、ここが颯太の隠れ家!? お邪魔しまーす! 佐々木さん、これ差し入れのケーキです!」レンが人懐っこい笑顔で箱を差し出し、ハクは「急に押しかけてすみません。これ、僕たちがバレずにここへ来るためのカモフラージュに使った服です」と、丁寧に手土産の入った袋を彩夏に手渡した。全員が床に車座になって座ると、リーダーのレオが真剣な表情で口を開いた。「よし、全員揃ったところで、『颯太と佐々木さんを守るためのカモフラージュ作戦会議』を始めるよ。事務所のガードは日に日に厳しくなってる。特にあの高城マネージャーは、先日の靴の件でまだ佐々木さんのアパート周辺を疑ってる様子だ」「あいつ、鼻が利くからな」と颯太が苦々しく呟く。「そこでさ!」レンが身を乗り出した。「俺の出番ってわけ。これから颯太がこの部屋に来るときは、俺の車を使う。俺が派手な私服でマスコミやマネージャーを引きつけてる間に、颯太はハクの地味な車に化けて移動する。題して『身代わり王子作戦』!」「レンの車は目立つからね。囮には最適だよ」ハクが眼鏡を指で押し上げながら、淡々と付け加える。「さらに、佐々木さんが買い物に出る時も注意が必要です。もし万が一、週刊誌に尾行されてもいいように、これからは僕たちメンバーの誰かが交代で『佐々木さんの友人』のフリをしてカモフラージュします。例えば、ナオあたりが一緒に歩けば、ただの『アイドルのファン友達の買い物』に見せかけられる」「えー、僕が彩夏さんとデート係? 役得じゃん。颯太、睨まないでよ」ナオがニヤニヤしながら颯太をからかうと、颯太は彩夏の肩をぐっと自分の方へ引き寄せ、独占欲を隠そうともせずにメンバーを睨みつけた。「ナオ、お前は絶対ナシ。彩夏に近づくな。……カモフラージュなら、ハクかレオにしてくれ」「はいはい、わかったよ」レオが苦笑しながら二人をなだめる。トップアイドルたちが、自分たちのキャリアを危険に晒してまで、大真面目に「一人の女の子とメンバーの恋」を隠し通そうと作戦を練ってくれている。その光景があまりにも現実離れしていて、だけど温かくて、彩夏の胸はジーンと熱くなった。「あの……皆さん、本当にありがとうございます。私のせいで、皆さんの活動に迷惑がかかったらって思うと、すごく怖くて……」彩夏が頭を下げると、それまで静かだったハクが、優しい目で彩夏を見つめた。「佐々木さん、気にしないでください。颯太は最近、ずっと笑わなくなっていたんです。でも、今の颯太は、僕たちがデビューした頃みたいに生き生きしている。彼を救ってくれたのはあなたです。だから、僕たちにとっても、佐々木さんは大切な恩人なんですよ」「そうそう! 5人で『マゼアオ』だからね! メンバーの恋路を邪魔する奴は、リーダーが論破してくれるから安心しなよ!」レンが明るく言うと、部屋の中は温かい笑い声に包まれた。会議が終わり、メンバーたちが「じゃあ、作戦開始ね!」と足早に去っていった後。再び静かになった部屋で、颯太は後ろから彩夏の腰に腕を回し、そっと耳元に唇を寄せた。「……あいつら、余計なことばっかり。でも、これで本当に外でも会えるようになる。ねえ彩夏、今度のオフ、メンバーの作戦に乗っかって、二人で誰も知らない場所へ遠出してみる?」メンバーという最強の味方を得た二人の恋は、もう誰にも、事務所にさえも引き裂けないほど、強固なものへと加速していくのだった。

