翌日の夜。
奇跡的にマネージャーを追い返した興奮も冷めやらぬうちに、再びピンチは訪れた。
コン、コン、コン。
インターホンではなく、ドアを直接ノックする小刻みな音。昨日の緊迫感とはどこか違う、遠慮がちで規則的なリズムだった。
「颯太、いるんでしょ。……開けて。俺たちだけだから」
ドアの向こうから聞こえてきたのは、テレビでいつも聴いている、聞き馴染みのある優しい声だった。
『マゼアオ』のリーダー・レオの声だ。
驚いて固まる彩夏の横を、颯太がため息をつきながら通り過ぎ、あっさりと鍵を開けてしまった。
「ちょっと、颯太くん!?」と止める間もなく、滑り込んできたのは二人の美男子――リーダーのレオと、最年少メンバーのナオだった。
「やっぱりここにいた! 捜したんだからね、颯太!」
「しーっ、レオ、声が大きい。……初めまして、驚かせてごめんなさい。青野颯太のメンバーのレオです。こっちはナオ」
二人は完璧なオーラを放ちながらも、狭い玄関で律儀に一礼した。
彩夏は頭が真っ白になりながらも、「あ、佐々木です……」と名乗るのが精一杯だった。
「なんでここが分かったんだよ」
不機嫌そうに髪をかく颯太に、レオは苦笑しながらスマホを見せた。
「メンバー間限定の共有アプリ、位置情報が完全に切れる直前のログがこのアパートだったんだ。マネージャーたちには内緒で、俺たちだけで先に来た」
ナオが部屋を見回し、そしてベッドの上に並ぶ颯太の私物と、お揃いのマグカップに目を留める。
「ふーん……。颯太がストーカーから逃げて、そのまま女の子の家に転がり込んだってわけね。週刊誌に見つかったらグループごと大炎上だよ? 分かってんの?」
ナオの鋭い言葉に、彩夏はギュッと拳を握りしめ、俯いた。自分のせいで彼の、彼らの未来を壊してしまう。やっぱり、最初から匿うべきではなかったのだと後悔が押し寄せる。
しかし、次の瞬間。
「でもさ――」
ナオが、ふっと悪戯っぽく笑った。
「今の颯太、テレビの時よりずっと人間らしい顔してんじゃん。いつも死んだ魚みたいな目して仕事してたのに」
「おい、ナオ」と颯太が睨むが、ナオは気にせず彩夏に向かってピースサインを作った。
「お姉さん、ありがとね。この我が儘センターを匿ってくれて。俺、颯太のこういう顔、初めて見た。ねえリーダー、事務所には内緒にしてあげようよ」
レオも優しく微笑み、彩夏の目線に合わせて少し腰を落とした。
「うん、僕からもお願いするよ、佐々木さん。颯太は完璧を求められすぎて、心が限界だったんだ。彼がここを隠れ家にしたいなら、僕たちメンバー全員で全力で隠し通す。だから……もう少しだけ、この不器用な男の避難所でいてあげてくれないかな?」
「みんな……」
彩夏の目から、張り詰めていた涙がぽろりとこぼれ落ちた。怒られると思っていたのに、二人はあまりにも優しく、そして何より、颯太のことを心から大切に思っていた。
「悪かったな、心配かけて」
颯太がぶっきらぼうに、だけど照れくさそうに二人の肩を小突く。
「ま、お礼は次のライブのパフォーマンスで返せよ。じゃあ、マネージャーたちが気づく前に俺たちは戻る。佐々木さん、颯太をよろしくね!」
嵐のようにやってきた二人は、爽やかな笑顔を残して、足早にアパートを去っていった。
再び静まり返った部屋。
彩夏が涙を拭っていると、背後から大きな体が覆いかぶさるように、強く抱きしめられた。
「あいつら、余計なこと言って……。でも、これで公認だ」
颯太は彩夏の首筋に深く顔を埋め、嬉しそうに声を潜めた。
「メンバーも味方になってくれた。もう誰も、俺たちを邪魔できないよ、彩夏」
秘密を共有する仲間を得たことで、二人の禁断の恋は、より強固で、より深く、誰にも止められないものへと変わっていくのだった。
奇跡的にマネージャーを追い返した興奮も冷めやらぬうちに、再びピンチは訪れた。
コン、コン、コン。
インターホンではなく、ドアを直接ノックする小刻みな音。昨日の緊迫感とはどこか違う、遠慮がちで規則的なリズムだった。
「颯太、いるんでしょ。……開けて。俺たちだけだから」
ドアの向こうから聞こえてきたのは、テレビでいつも聴いている、聞き馴染みのある優しい声だった。
『マゼアオ』のリーダー・レオの声だ。
驚いて固まる彩夏の横を、颯太がため息をつきながら通り過ぎ、あっさりと鍵を開けてしまった。
「ちょっと、颯太くん!?」と止める間もなく、滑り込んできたのは二人の美男子――リーダーのレオと、最年少メンバーのナオだった。
「やっぱりここにいた! 捜したんだからね、颯太!」
「しーっ、レオ、声が大きい。……初めまして、驚かせてごめんなさい。青野颯太のメンバーのレオです。こっちはナオ」
二人は完璧なオーラを放ちながらも、狭い玄関で律儀に一礼した。
彩夏は頭が真っ白になりながらも、「あ、佐々木です……」と名乗るのが精一杯だった。
「なんでここが分かったんだよ」
不機嫌そうに髪をかく颯太に、レオは苦笑しながらスマホを見せた。
「メンバー間限定の共有アプリ、位置情報が完全に切れる直前のログがこのアパートだったんだ。マネージャーたちには内緒で、俺たちだけで先に来た」
ナオが部屋を見回し、そしてベッドの上に並ぶ颯太の私物と、お揃いのマグカップに目を留める。
「ふーん……。颯太がストーカーから逃げて、そのまま女の子の家に転がり込んだってわけね。週刊誌に見つかったらグループごと大炎上だよ? 分かってんの?」
ナオの鋭い言葉に、彩夏はギュッと拳を握りしめ、俯いた。自分のせいで彼の、彼らの未来を壊してしまう。やっぱり、最初から匿うべきではなかったのだと後悔が押し寄せる。
しかし、次の瞬間。
「でもさ――」
ナオが、ふっと悪戯っぽく笑った。
「今の颯太、テレビの時よりずっと人間らしい顔してんじゃん。いつも死んだ魚みたいな目して仕事してたのに」
「おい、ナオ」と颯太が睨むが、ナオは気にせず彩夏に向かってピースサインを作った。
「お姉さん、ありがとね。この我が儘センターを匿ってくれて。俺、颯太のこういう顔、初めて見た。ねえリーダー、事務所には内緒にしてあげようよ」
レオも優しく微笑み、彩夏の目線に合わせて少し腰を落とした。
「うん、僕からもお願いするよ、佐々木さん。颯太は完璧を求められすぎて、心が限界だったんだ。彼がここを隠れ家にしたいなら、僕たちメンバー全員で全力で隠し通す。だから……もう少しだけ、この不器用な男の避難所でいてあげてくれないかな?」
「みんな……」
彩夏の目から、張り詰めていた涙がぽろりとこぼれ落ちた。怒られると思っていたのに、二人はあまりにも優しく、そして何より、颯太のことを心から大切に思っていた。
「悪かったな、心配かけて」
颯太がぶっきらぼうに、だけど照れくさそうに二人の肩を小突く。
「ま、お礼は次のライブのパフォーマンスで返せよ。じゃあ、マネージャーたちが気づく前に俺たちは戻る。佐々木さん、颯太をよろしくね!」
嵐のようにやってきた二人は、爽やかな笑顔を残して、足早にアパートを去っていった。
再び静まり返った部屋。
彩夏が涙を拭っていると、背後から大きな体が覆いかぶさるように、強く抱きしめられた。
「あいつら、余計なこと言って……。でも、これで公認だ」
颯太は彩夏の首筋に深く顔を埋め、嬉しそうに声を潜めた。
「メンバーも味方になってくれた。もう誰も、俺たちを邪魔できないよ、彩夏」
秘密を共有する仲間を得たことで、二人の禁断の恋は、より強固で、より深く、誰にも止められないものへと変わっていくのだった。
