制御不能な恋

彩夏の脳裏に最悪の未来がよぎった。ここで颯太が見つかれば、彼の人生も、自分の日常もすべて終わる。「――何言ってるんですか!?」彩夏はわざと大きな声を張り上げ、驚くほど冷ややかな目でマネージャーを睨みつけた。「失礼すぎませんか? 夜中にいきなり押しかけてきて、女の子の一人暮らしの部屋を覗き見ようとするなんて。その靴、私の彼氏のものですけど!?」心臓が喉から飛び出しそうなほど激しく波打っていたが、声だけは震わせまいと必死に怒りを演じた。「……彼氏、ですか?」「そうです! 今、奥で寝てます。さっきから外が騒がしいからって、警察に通報しようかって話してたんですよ。アイドルだかなんだか知りませんけど、関係ない人間のプライベートにまで踏み込むなら、本当に今すぐ警察を呼びますからね!」そう言って、手元にあったスマホの画面を男たちの目の前に突きつける。画面には、先ほど颯太が勝手に登録した『マゼアオのマネージャー・高城』の文字が表示されていた。マネージャーの顔色が変わった。一般人に通報され、SNSにでも拡散されれば事務所の社会的信用に関わる。さらに、廊下の奥からはパパラッチと思しき不審な影がこちらを狙っているのだ。これ以上ここで揉めるのは得策ではないと判断したのだろう。「……大変失礼いたしました。こちらの行き過ぎた確認でした。どうか警察への連絡はご容赦ください」男たちは深く頭を下げると、弾かれたようにエレベーターへと引き返していった。廊下の奥にいた人影も、それを追うように慌ただしく去っていく。パタン、と静かにドアが閉まった。鍵とチェーンをかけ直した瞬間、彩夏は緊張の糸が切れ、その場にへたり込んでしまった。激しい動悸で呼吸がうまくできない。「……すごかったね、彩夏」静まり返った部屋に、クローゼットの扉が開く音が響いた。出てきた颯太は、床に座り込む彩夏の前に膝をつき、その震える小さな手をそっと包み込んだ。彼の瞳は、危険な綱渡りを制した興奮と、自分を守ってくれた彩夏へのどうしようもない愛おしさで潤んでいた。「彼氏の靴、か。……嘘から出た実(まこと)にしちゃおうか?」颯太は意地悪く微笑むと、彩夏の体を床から抱き上げ、そのまま狭いベッドへと押し倒した。「あんな風に俺を守ってくれるなんて思わなかった。もう、絶対に君を離さないから」耳元で囁かれる熱い吐息。外の危険が去った安堵感と、目の前にいるアイドルの歪んだ独占欲に包まれ、彩夏の理性は完全に麻痺していくのだった。