小説家葉月和花物語



取材のオファーは断り、ホテルの部屋に引き籠った。

食事はルームサービスで済ませた。

「続きが気になり、徹夜で読んでしまいましたよ。」

父の顧問弁護士だった、辰巳先生からそんな感想を頂けた。

私のホテルの部屋を訪ねて来るのは、辰巳先生と久我さんと千尋くんの三人だった。

弁護士の先生、出版社の編集者、……千尋くんとの関係性は、なんと言えば良いのか微妙だ。

後は部屋の清掃とベッドメイキングしてくれる、ホテルの人とルームサービスを運んで来てくれる人……。


マスコミから隠れるのに、ラグジュアリーホテルは最適である。

教育が行き届いてるから、例え小説家の葉月和花が連泊してホテル住まいでも、情報を外に一切漏らさない。

お客様の個人情報を外部に漏らせば、信用問題に関わる。

私はホテルにとって、良い客だから、その私の怒りを買うような真似はしなかった。



千尋くんは私の四つ年下。

愛人の他に、バーテンダーの仕事をしてるそう。

バーテンダーが本業で、……愛人が副業らしい。


端正な顔に背が高く、引き締まった体をしてる。

筋肉が程良く付いており、清潔感がある……。

ノーネクタイでカジュアルな格好をしてるが、ジャケットを必ず羽織っていた。

着てる物にはアイロンが綺麗に掛けられ、シワひとつなかった。

靴の手入れもされていた。

……流石としか、言いようがない。

プロ意識の塊。

今時の若者で、これだけきっちりしてる人は、中々お目に掛かれなかった。


一条さんは私の二学年上の先輩だった。

大学の文学部を卒業後、業界最大手の出版社の社長令嬢と結婚した。

裏切られた、とは思わなかった。

私が一条さんを拒絶した。


引き籠りをしてたのは約五年で、父は私に何も言わなかった。

大学を中退して親の脛を齧って生活してる、穀潰しでしかなかったのに。

父なりの愛、だったんだと、今なら分かった。



……セックスの前にシャワーを浴びたい。

千尋くんに注文したのは、それだけで後はお任せした。

潔癖ではないが、エチケットとして……。


頬を優しく撫でられて、唇が重ねられた。

角度を変えて啄むキスから、舌が入って来て深いキスに。

頬の内側や上顎の粘膜を擦られて、唾液が溢れそうになるが、千尋くんに飲み込まれた。

舌を絡め取られ、唾液が混ざり合う。

水音が耳を犯した。


千尋くんの舌は熱くて、気持ち良かった。


ベッドにゆっくりと、押し倒された。

バスローブの腰紐を解かれて、中には何も身に付けておらず、生まれたままの姿を見られる。


肌を愛撫されて、唇が落とされて、舌が這わされた。


「あっ。」

乳首を指先で摘まれて、吸われて甘い声を上げた。

千尋くんから与えられる快楽に、私は酔い痴れた。



一回のお手当に、五万円を包んで渡した。

豪遊と食事に付き合ってくれるのも、キスとセックスありの大人の関係も、一律で五万円にした。

極論、会ってくれるだけで五万円。

そこら辺の相場は良く分からなかった。

千尋くんは仕事をしっかりしてくれるから、倍でも良いのだが、千尋くんは受け取ってくれなさそうだった。


父は愛人契約を結んでいた女性に、月どれだけ渡してたかは知らないが、サラリーマンの月収よりは、確実に多いだろう。

……五十万くらい、かな?

家賃とか生活費も払ってそうだから、もっといってたかも知れない。