銀杏並木の毒舌な隣人③ (年下の彼氏編)

 やがて思考を終えたかのように、もう一度、麻美子へ深淵な視線を向け直す。

 まるで悠久の時を生き抜いた長老のように、静かな悟りを込めて語りかけてきた。

『お前が求めているのはなんだ? パートナーか? それとも、標本のような飾りか? お前の喜びは、見せかけだけで満足なのか』

 麻美子は恐怖と図星を突かれた衝撃に怯え震えながら、必死に首を横に振っていた。

 蓮は、麻美子の青ざめた表情に気づくと、慌てるように言葉をかけていた。

「どうしたんですか麻美子さん。体調でも悪いのですか? 顔色が悪いですよ」

 麻美子は小さく息を飲み込むと、引きつりそうな唇に必死で笑みを浮かべ、いつもの「頼れる年上の女性」の顔を取り戻そうと答えた。

「大丈夫よ。ちょっと疲れちゃったみたい。久々に、はしゃぎすぎちゃったのかな?」

 そんな言い訳をすると、蓮は心配そうに寄り添い、二人は、博物館の出口へと歩き出した。

 広場のベンチで、休んでいる間、蓮は飲み物を買ってくると、一人その場を離れていった。

 名画に知性を否定され、恐竜の骨に大人ぶる嘘を見透かされ、麻美子のプライドはズタズタだった。

(私は、一体何をやっているんだろう……。本当の私なんて、全然大人じゃないのに)

 分かっていたはずなのに、久々の恋に自分を見失っていたのかもしれない。

 押し寄せる自己嫌悪に苛まれ、麻美子は俯きながら唇を噛み締めていた。