銀杏並木の毒舌な隣人③ (年下の彼氏編)

 反射的に身構えるように声の主へ視線を向けると、巨大なティラノサウルスの骨格標本はゆっくりと顔を傾け、隣で無邪気に笑う蓮の上から、麻美子だけをじっと見下ろしていた。

『なんだい? お前はこいつの「母親」にでもなるつもりか?』

「麻美子さん? どうかしました?」

 隣で不思議そうに顔を覗き込んでくる蓮と同じように、ティラノサウルスもまた、麻美子の返事を待っている。

 けれど麻美子は足がすくみ、太古の巨躯が突きつけてくる「生の問いかけ」に、金縛りに遭ったように言葉を失っていた。

 蓮が「この恐竜には思い出があって、小学校の自由研究の時——」と言葉を続けるが、それをお構いなしにティラノサウルスも言葉を重ねる。

『俺から見れば、お前たちの数年の歳の差なんて、歴史の瞬きにすら満たない。大人の落ち着きという嘘で身を固めて、こいつと同じ目線で笑うことすら怖がっているのか。どうせいつか二人とも等しく朽ち果てて骨になるんだ。今、その若い男の熱い体温に触れられる時間の訪れを、なぜ素直に喜ばない?』

 ティラノサウルスはゆっくりと視線を外し、隣の蓮をじっと見つめたまま、数秒の静かな沈黙を保った。