茜と菫の境界線で、夢を見る。


 今日の夕食はうどんにすると宣言したのに、気づいたら親子丼を作っていた。

 仕事から帰ってきたお母さんも、「あれ? うどんじゃなかったっけ?」と首を傾げた。

「卵の賞味期限、近かったから」

 取って付けたような言い訳に、お母さんは「ふぅん」と相槌を打って、いただきますと両手を合わせた。


「学校はどう?」

 食べ始めてしばらく経った頃、お母さんが唐突に切り出した。

 小学生の頃から幾度となく繰り返されてきた、抽象的な質問だ。いつも同じ返答をするわけにいかないから、答える側としては毎回ちょっと困る。


「クラス替えあったから、まだ慣れない。けど、まぁ大丈夫」

 口にしてから、4月に同じことを訊かれたときと一言一句同じ返事をしてしまったような気がした。だけど、お母さんは、そう、と呟き、安心したように微笑んだ。それを見て、陽葵も安心した。

 お母さんは手元の器に視線を落としたまま、「授業は、どう?」とさらに質問を重ねた。お母さんなりの教育方針なのか、昔から勉強しなさいとか宿題はやったのとか言われたことはない。だから、突飛な問いかけに正直驚いた。


「なんとかやってるよ」

 根拠のない返答に、お母さんは、そう、と小さく頷き、きゅうりの漬物に箸を伸ばした。


「……え、それだけ?」

 珍しい話題だったから、てっきり来年は受験生だから成績や進路のことを探られるのかと身構えたのに、お母さんは平然と、うん、と頷く。


「なんで?」

「きいてみただけ」

 ニコッと笑った後は、それきり何も言わなかった。

 意味深な感じがしたけど、わざわざ学校のことを詮索されるキッカケを自ら作る必要もない。陽葵は黙って親子丼を食べ進めた。

 ――購買の親子丼は、どんな味がするんだろう。

 まだ見たことも食べたこともないその味を想像し、いつか料理本の中で見た卵がとろとろの親子丼と重ね合わせる。

 陽葵は火を通し過ぎたせいで固くなってしまった卵を、そっと口に運んだ。出汁をしっかりと利かせたはずなのに、何となく味がしないような気がした。