「うん、どれもいいね。ありがとう、あとはこっちで提出しておくから来週にはアンケの結果渡せると思う」
学級会が終わったあと倉庫の備品確認を引き受けてくれた宗介くんにお礼を伝え、わたしは安西師匠に学園祭ポスター三案分のデータとその印刷版を提出した。
「キャライラスト上達したね、空」
「……! ありがとうございます……!」
元々は現実をそのまま切り取ったような絵を描くのが好きなわたしだったけど、将来的にはアーティストさんの立ち絵や本の表紙を任されるイラストレーターになりたい。
だから人物画だけじゃなくて、キャライラストにも挑戦したかった。でも元々あった特技を個性として伸ばしつつ違和感のないようにイラストに落とし込むのは難しくて、今も修行中。
まだカンペキに納得してるってわけではないけれど、それでも尊敬してる師匠に「上達した」って言ってもらえるのはすごく嬉しい。
「これは票割れそうね……」
安西師匠の後ろからひょこっと顔を出した先輩が三枚の紙を取って難しい顔をした。
その数秒後。
「あれ、これもしかして全部イラスト? 後ろの校舎とか」
なにかに気づいた先輩がキャラを一人だけにした一枚目と二枚目の背景を指した。
人描くだけじゃつまらないかもって思って練習で描いてた中等部校舎の絵を差し込んでみたんだよね。
「はい。ただ、あまり馴染んでないので描き直しは必要ですが……」
デジタルに落とし込むときに修正は入れたけど、まだ背景が浮いてるような気がするからもう少しアニメ調に簡略化しないと。
「これを二日で描き上げる中学生がこの世にいるなんて……」
「リアル調の絵に関しては、僕が教わりたいくらいだよほんと」
て、照れる……。
「じゃあ、僕はこれ出してくるから二人は自分の作業戻っちゃって」
安西師匠はそう言ってわたしが返事をする前にあわただしく部室を出て行った。
「でもこんな上手なのにプロじゃないんだもんねー」
「は、はい……SNSをやっていないのでお仕事は兄からしか受けていなくて……」
お兄ちゃんからギャラは受け取ってるけど、CDの発売は一シーズンに一枚あるかないかくらいだから、お仕事と言えるほど描く頻度は高くない。
「お兄ちゃんいるの!?」
学園祭のときに教室に飾れないかなって思ってる画用紙と絵の具を机に出すわたしの横で、先輩が驚きのあまり筆箱を落っことした。
「い、います……今年大学受験の……」
「空ちゃん大丈夫?」
「へ?」
な、なにが……?
「お兄ちゃんにおどされて描かされてるなんてこと、ない?」
「と、とんでもないっ……! 納期は余裕持って設定してくれてますし、お金もしっかり受け取ってます……!」
お兄ちゃんはガサツに見える……というか、実際結構適当だけど、自分の音楽に少しでも関係することはしっかりしてるから。
お兄ちゃんは事務所に所属しているわけじゃない。スカウトはあったけど断ってるから、お父さんみたいにマネージャーさんがいない中、一人で演奏から動画投稿用の編集、CDの企画立て、会計にスケジュール管理まで全部こなしてるんだ。
いつか過労で倒れちゃいそうなハードワーカー状態だから、大学に行ったらアシスタントさんを探すつもりみたい。
「え、どんなの描いてるの? どこかで売ってたりする?」
「CDのジャケットです。限定版はすぐに売り切れてしまうんですけど、通常版ならお兄ちゃんの公式ストアに……」
今までお兄ちゃんが出したCDは五枚。絵が違う限定品は第三弾のオリジナル曲集以降で作ったけど、数秒で売り切れてた。
視聴者さんの中にはわたしの絵を目当てに割高な限定版を買ってくれる人もいて、嬉しい限り。
動画投稿アプリからお兄ちゃんのチャンネルに飛んで公式ストアを開いて先輩に見せた。
カシャっと音が聞こえた。
音のする方を振り向くと、別の先輩が筆を落としてワナワナと震えていた。
だ、大丈夫かな……?
「うそぉ! あれ描いてるの空ちゃんだったの!? 貯金してたのに一瞬で売り切れちゃって買えなかったやつ……!」
部室のはしっこの方だったけど、先輩の声はよく響いた。
「推しが同じ部活で後輩とか、前世の私はどんな善行を積んだのだろうか。前世の私、ありがとう」
と思えば合掌をして冷静に前世の自分に祈りをささげ始めた。
テンションの変わりようについていけないわたしを置き去りにして、さっきの声でなんだなんだと集まってきた先輩たちは話だした。
最終的に、定価の二倍でも三倍でもいいから限定版の再販がないかで盛り上がり始めて……。
お兄ちゃんの視聴者さんがこんな近くにいたことにビックリするのと同時に、わたしの絵が思った以上に愛されていることを知った。
美術部は中等部高等部合同でなにかをすることが少ない。
今の三年生が中等部を卒業してしまうと疎遠になってしまう人も出てくるはず。
三年生五人分……。最後まで黙ってて、三送会のときにプレゼントしたら喜んでくれるかな?
先輩たちはすごくよくしてくれているし、安西師匠にも渡すのは緊張するけど……。少しでも腕を上げて最高傑作だって胸を張れるような絵を描こう。
にぎやかな先輩たちを横目に、まずはクリームソーダから描き始めた。


