家に帰ったわたしは、刺繍糸を分けてからメモを整理する時間を作った。
明日はまた授業終わりに学級会があるからそこで提案しやすいように。
まずは内装。
大正ロマンカフェのイメージを念頭に過去の備品を探し、なければ購入か代替品を検討。モデルルームとして、今回視察で行った喫茶店の様子を描いてみた。イラストだけど、あった方が想像しやすいよね。
次にメニュー。
大正ロマンは確立された文化イメージの一つだから、その派生メニューを自分たちで作り、お金は食器類にかけないかという提案。
最後に衣装。
正直、これに関してはなにも思いついてない。レンタルだとしても、着物初心者だと教室で着付けができないから。クラスメイトの誰かにベテランがいればいいんだけど……。
「発言、いいですか」
翌日の学級会。わたしのメモをもとに宗介くんが意見をまとめてくれているときだった。
スッと手を挙げたのは桐谷くん。
「どうぞ」
「僕の着物、貸しましょうか。女性ものが多いですし、長身な牧野さんが着られそうなものもかなりありますので」
一瞬、教室がシーンと静まり返った。
最初に声を上げたのは月乃さん。
「いいの? 私たち、着付けもできないよ?」
「ある程度……痴漢と訴えられないラインから手伝いはするつもりです。僕は一人で女性ものの帯締めまでできるので」
帯締めまで!? わたし、お正月に合わせて和装の女の子描いたことあったけど帯すっごい複雑だった記憶……。
「女子陣と椋がいいなら俺は構わないよ」
「ぼくは平気……」
「あたしも賛成!」
「私も」
「牧野さんはどうしますか?」
「お、お願いします……!」
思わぬところから解決策が降ってきた。
「僕は今日レコーディングがあるので、明日か明後日なら。皆さんがよければ家に来てください」
「ぼくは明日打ち合わせがあるから……」
「では明後日で。三人はそれで構いませんか?」
わ、わたしはいつでも……! お仕事は学園祭のポスター作りくらいだし、着付けを教えてもらえるんだから都合はこっちがつけなきゃだからね。
「あたしも明後日オッケー」
「私も行けるけど……悠人は女の子家に上げて怒られたりしない?」
あ……確かに。スキャンダルとして取り上げられちゃったらお仕事しにくくなりそう……。
「事務所は自由恋愛ですし、怒られることはないですね。当日は僕とわからないくらいに本気を出しますので相当なファンでなければわからないかと」
なら……大丈夫なのかな?
「それ、俺らも行っていいやつなん?」
桐谷くんにそう質問したのは蘇我慎之介くん。宗介くんと同じバスケ部で、部活ではソガシンの愛称で呼ばれているらしい。
「実家について公言しないと一筆書いてくれるなら全員で来ていただいても問題ありません。帰りの電車はないので僕が呼んだ方以外は頑張って帰るかホテル取ってください」
「いや、お前どんな田舎に住んでんの?」
「少なくとも都会ではないですね。ビデ通の方が楽だと思いますよ」
「それなら役に立たん俺らはそっちで見してもらうわ」
見るって……着替えてる途中のところはさすがに見られないよね……?
蘇我くんの提案にちょっとだけ不安になる。ビデツウって、多分ビデオ通話のこと言ってるんだと思うけど……。
「別室のカメラは宗介に見てもらいます。着替えている間は他のこと話し合っていてください」
着替えは見られないみたい。よかったぁ……。
「それでは。僕は時間が押しているのでこの辺で失礼します」
あっ……。
「ありがとう……! お仕事、がんばって」
急いでるのにギリギリまで話し合いに参加してくれた桐谷くんにペコリと頭を下げる。
「俺からも。協力してくれて助かってる。ありがとう」
宗介くんとわたしからお礼を伝えられて、少し照れたように笑った桐谷くんは全力疾走で教室を飛び出した。
わたしたちが思ってるよりもギリギリだったのかも……。芸能界って特に遅刻に厳しそうだから、時間通りに着きますように……!
「大体の方針は決まりました。内装は描いてもらったイメージ図を元に倉庫を確認したいので、羽場先生にもご協力いただけるとありがたいです」
「それなら今日行けるぞ。後で鍵を借りてくる」
「メニューは今週の土曜日、授業終わりに調理室を取っておきます。参加は自由ですが、できれば出席してもらいたいです。衣装は悠人の着物貸与で仮決定です。質問がある人は?」
「オレいい?」
神田くんが手を挙げた。
「どうぞ」
「二人が今のところ考えてるメニューってのはある感じ?」
その質問にはわたしが答えた。
宗介くんが進行したり意見まとめてわかりやすく説明してくれるからわたしも役に立ちたくて、質疑応答はわたしの担当にしたんだ。
人前で話すのはまだ緊張しちゃうけど、逆に練習になるかなって思って。
「作りやすいピザトーストとクリームソーダ、コーヒーとお水で考えています」
「なるほど。全部うちで出してるし、オレ結構戦力になると思うな。暇な男子組の料理教室からやれるからどんどん頼って」
暇な男子組って……。でも、お料理上手な人が多いと砂糖と塩間違えるとか、卵を電子レンジで爆発させるとかいうベタな事故は起こりにくいからすごく助かる。
着物を着ないのは桐谷くんと斎藤くん以外の男の子。さっき桐谷くんに質問した蘇我くんの他だと、咲間弥彦くんと永野洋一くん。それから宗介くんと神田くん。
神田くんは興味ありそうだったけど、「染め直してから出直してください。地毛で出ないのは僕のプライドが許しません」と全力で拒否していた。
確かに今はたくさん観光客の人がいるから変ではないけど、黒から染めた金髪はコンセプトにあった色ではないもんね。
一回拒否されてからは特に話題に出すことも黒に染め直すこともなかったから、ただなんとなく興味があったくらいだったのかな?
女装って単語に青ざめた斎藤くんをサラッと見捨てたくらいだったし……。
お料理の先生が宗介くんと神田くんっていう面倒見のいいペアだから、メニュー班は心配なさそう。
その日の話し合いは、衣装班と内装班、メニュー班のリーダーを実行委員以外から決めるところで終わった。
衣装班が阿部さん、内装班が永野くん、メニュー班は神田くん。
わたしは永野くんと咲間くん、蘇我くんとはほとんど話したことがないから今回を機に少しでも知れたらいいな。


