「ん、ここだ」
雑貨屋さんから一度大通りに戻って別の裏道に入って歩くこと数分。
独特な雰囲気の喫茶店が唐突に現れた。
若干ナナメに傾いた看板には、【喫茶 じゃがいも】と書かれている。外に出ているメニューの立て看板にはコーヒーやトースト、クリームソーダと書かれてあってじゃがいもの面影は見あたらない。
強いて言うならスイートポテトがあるくらい? でもさつまいもだよね、スイートポテトって。単に店長さんがじゃがいも好きなのかな。
お店に入ると、お昼どきというのもあって、かなりのお客さんが入っていた。たまたまお会計を終わらせた人がいて待たずに座れたからラッキーだったな。
大きな窓の前の二人席に案内された。はしっこの方だから店内全体がぐるっと見渡せる。
温かみのある木のイスに真っ赤なクッションが埋め込まれてるってだけで雰囲気あって、今すぐスケッチしたいくらい。
わたしが注文したのはピザトーストの小さめサイズとクリームソーダのオレンジ味。
宗介くんはピザトーストの普通サイズと食後にブレンドコーヒー、クリームソーダのメロン味を注文した。
「お待たせしました」
しばらく大きな窓から見える景色をながめていると、注文したお料理がやってきた。
クリームソーダの方は、シェアを前提としてるのか、各グラスにスプーンが二本ついていた。
さくらんぼは乗ってないけど、どこか懐かしさを感じるビジュアルでついつい写真に残したくなる……!
「「いただきます」」
アイスが溶けてしまう前に写真を切り上げていざ実食!
「「…………!」」
「うまっ」
「美味しい……」
初クリームソーダだけど、これはいい……!
ストローで飲むと爽やかなオレンジの甘さが口いっぱいに広がって、スプーンでバニラアイスと一緒に食べるとミルクの濃い甘みが加わってスイートな味わいになる……!
「俺のもちょっと飲む?」
「いいの? じゃあわたしのオレンジと交換しよう」
ん〜! 定番のメロンも美味しい……!
「これもいいね」
これならみんなで簡単に作れそう。問題は氷とアイスを冷やしておく冷凍庫だけど、一般家庭じゃ全員で逆立してようやくってくらい学費がかかる秀英学園なら各教室分の冷凍庫があってもおかしくない。先生に相談してみよう。
さて、ピザトーストの方は……。
……もう、言葉が出ないくらい。
外はザクッと、中はふわふわ。
シャキッとした玉ねぎがいいアクセントになってて、ピーマンのほどよい苦味とピザソースの酸味がたっぷり乗せられたチーズと相性バッチリだ。
「飲み物班と食べ物班に別れて、派生メニューを作るのもいいかも。コーヒーと水はアレンジなしで出すとしても、これは二品で十分通用する」
「うん。それなら費用を抑えながらメニューにこだわりたいって意見も取り入れられるよね」
次の学級会で提案できるように食べ終わったらメモしておこう。
店員さんを呼んで持ってきてもらった宗介くんのコーヒーは、ヨーロッパの貴族とかが使ってそうなゴージャスなカップに入って出てきた。
調理場の近くにあるディスプレイ棚に同じようなカップがたくさん置いてあるから、コレクターさんだったりするのかな。
でも学園祭で出すとするならフタのついた紙コップで、ラベルをオリジナルで作るくらいしかできなさそうだよね……。
小さい子がうっかり一点物とか壊しちゃっても弁償しようがないから、店内飲食だったとしても陶器とかガラスは使わない方がよさそう。それも理由と一緒にメモしておかないと。
わたしのメモと宗介くんのコーヒータイムが終わったら、次のお客さんもいるので退店。
お店の内装は撮ったりできなかったけど、なんとなくわかるだけでも全然違う。帰ったら記憶を頼りに軽く描いてみよう。
「空の残りってあといくら?」
「えっと、二千円くらいだよ」
わたしの返答に少し考えた宗介くんは「思いついた」と手を叩いた。
「男子は俺、女子と先生は空で揃いのもの用意したら写真映えするだろうなって思うんだけど、ミサンガとかどう? 来年以降洋装でやったとしてもそんな浮かないし、学生っぽくていいと思うんだけど」
「いいね! じゃあこの間二人で行った手芸屋さん行く?」
「そうだね、あそこなら色々置いてるけど……今回はビックリさせたいからこの辺で探すつもり」
じゃあサプライズだね! これは交換日記の中でわかったことなんだけど、わたしと宗介くんはサプライズがニガテ。上手にごまかせなくて相手を傷つけちゃうんじゃないかって思ってやらないようにしようって決めていたんだ。
だけど、わたしと宗介くんが手芸にハマってるのはクラスみんなが知ってるから、なんとかなりそう。なに作ってるか聞かれたとしても、お互いに作りあってるって思ってもらえる可能性が高いからね。
「せっかくだからクラスカラーとそれぞれのイメージカラーを取り入れたいところだけど、空は固まってる?」
うーん……女子みんなは思い浮かぶけど、問題は先生のイメージカラーだよね。副担任の高橋先生はともかく、羽場先生がちょっと謎かも。ぽい系統はあるんだけど、なんかしっくりこない感じ。
「羽場先生か……あの人高橋先生と婚約してるし、似たようなカラーリングでもいいと思うけどな……」
「じゃあ青系統……」
って……えぇ!? 高橋先生と羽場先生がこ、恋人同士!?
「来年のジュンブラに合わせて挙式するとか言ってたな……見かけによらずロマンチストだよね、羽場先生」
た、たしかに……。どんなプロポーズをしたかはわからないけど、ジューンブライドに結婚式をする人なら誰もが憧れるプロポーズをしたに違いないよね。
わたしが思う高橋先生のイメージカラーは紺色。
羽場先生はなんとなく緑系かなって思ってたから、緑混じりの青を探してみよう。しっくりくるのがあるかも。
刺繍糸を売っているお店を調べたところ、学校の近くにある手芸屋さんよりもさらに大きなハンドメイドショップが見つかった。
四階建ての小さいビルを丸々一棟使っていて、刺繍糸やはぎれだけじゃなくてレジン液や型、シーリングスタンプ、画材、服一着作れるくらいの大きい生地も売ってるみたい。
あとは関係する書籍とかもあるとか。
ここから一駅分行ったところにあるから一回電車に乗って、地下経路で向かった。
距離的に歩くのもできるけど、暑いから熱中症対策でね。
そしてわたしは五人分の刺繍糸を買って、宗介くんは七人分の刺繍糸を買った。
人数差を一緒にした方がいいんじゃないかって思って宗介くんの分をわたしが作ろうかって言ったんだけど、なぜか作り合うことになって差は埋まらなかった。
少ない分、カンペキ目指して編まなくちゃ。


