恋愛初心者③〜学園祭は驚きがいっぱい!〜


 約束の日、朝十時。

 わたしは宗介くんに送ったジャンパースカートを着て電車に乗った。


 ベージュのブラウスに深緑の生地、スカートはシンプルだけど共布のフリルとギャザーがついてて華やかに見える。小学校の卒業式のときはセットのボレロを羽織ってたけど、今は夏なので半袖のまま。

 腰のところできゅっと締める革のベルトがすっごく可愛い! 足元はかざりっ気のないローファーだけど、フリルのついた靴下で上とあわせてみた。


 中にパニエをはいたり頭にリボンカチューシャとかをつけたらロリータさんとしても通用しそうなくらいの可愛らしさ!

 一目惚れして卒業祝いに買ってもらったんだけど、小学校の卒業式で一回着たくらいだったからデートで着られるなんて嬉しい……!

 クラシカルな雰囲気がおしゃれだから、髪型は緩く巻くだけに留めてお化粧も気合い入れすぎない感じで。


 控えめだけど着こなしてるように見えるようなメイクは難しかったけど、お母さんに手伝ってもらってなんとか形になった。

 何度も鏡で確認したし、大丈夫なはず……!



 一番後ろの車両の四番ドアから乗ると、気づいた宗介くんが手を振って自分の隣の席を空けてくれた。

「おはよ、空」
「おはよう、宗介くん」

 宗介くんのファッションは、わたしと似た色のワイシャツに深緑のニットベスト、黒のスラックスに革靴。

 モデルさんの撮影中ですって言われても信じるくらいスタイリッシュでカッコいい。
 はりきっておしゃれして来てよかった……!


「制服のときも思ったけど、空って深緑似合うね」
「そ、そうかな?」
「うん。可愛い」

 うっ……、それは反則だよ……!


 普通電車だったから人はあんまり乗ってないけど、この場でサラッとそういうこと言われると照れる……。

「あ、ありがとう……」

 赤くなった顔を押さえてなんとかお礼を伝えた。ここで「宗介くんもカッコいい」って言えたらよかったんだけど、口をモゴモゴさせるだけで最後まで大事な言葉は出てこなかった。

 わたしの意気地なし……! 言ってもらって嬉しかった言葉を返せないなんて……! とっさに相手が喜ぶ返事ができる人になりたい……。


「ん、ここだ。案内によると五番線から乗り換えて十分くらいだって」

 もんもんとしている間に乗り継ぎ駅に着いた。
 わたしが人にぶつからないようにさり気なく手を引いてくれて、わたしに歩幅を合わせてくれる。

 昨日、カッコつけたいって言ってたのって、こういうこと? 事前にお昼ご飯食べるとこ調べてくれたり視察の提案をしてくれたのも宗介くん。今だって乗り換え情報を見ながら道案内をしてくれている。

 これがカッコいいスマートな人だとしたら、もしかしたら可愛いを極めるよりも難しいことなのでは……?


 わたしが目指すのは無謀だ……。

 宗介くんがエスコートしたいって思える女の子を目指しつつ、宗介くんを喜ばせたい!
 これを目標にして頑張ろう。



 環状線に乗って四駅分。そこから歩いて一番大きな出口から外に出ると、大きな銀行や複合施設ビル、オフィスが建ち並ぶ場所が広がった。

 ほ、ほんとにここにある……? わたしが写真で見た喫茶店、人気が少ない通りに面してるって書いてあったけど……。


「えーっと……。あ、あっちだ」
 しばらくくるくる回りながらスマホを周りにかざしていた宗介くんはなにかを見つけたらしい。平面地図を出しながら迷いなく歩き始めた。

 わたしはその後ろをトコトコ着いていく。


「あっつ……。日傘買って来ればよかったな……」
 歩きながらハンカチで汗をぬぐい、恨めしそうに太陽を見る宗介くん。

 確かに今日はそれくらい暑い。八月も暑かったけど、九月も全然負けてないよ……。朝の天気予報では三十六度予報だっけ。
 この間まで八月だったとはいえ、真夏すぎる……。


「空は帽子か日傘、持って来てる? もし持って来てないなら予定ちょっと変更させてもらいたいんだけど……」
「うん、いいよ。どこに行く?」

「ナビによると、ここから少し路地に入ると古い雑貨屋があるって。店頭写真、日傘写ってるからちょっと覗きたい」
 古い雑貨屋さんかぁ。
 どんなものが売ってるんだろう!



 そうワクワクで向かったわたしは、日傘一本の値段を見て震え上がった。

 い、いちまんごせんえん……。
 近所のスーパーに売ってる折りたたみ日傘は千円くらいだったから……十五倍!?


「店主さん、これ着物のリメイクですか?」

 触るのも怖い日傘に一歩後ずさるわたしの横から宗介くんがお店の奥に声をかけた。

 着物の、リメイク?

「あら、物知りなのね。私とかおばあちゃんたちのお古で日傘を作ってみたの。骨を見せないかわず張りだから、髪の毛を巻き込むこともないわよ」

 ひょこっと奥から出て来たのはお母さんと同年代くらいの女性。


 へえ、かわず張りっていうのがあるんだ。わたし、傘に巻き込まれて髪引っ張られること多いから覚えておこう。

「買います」
 そして、一万五千円の値札が着いた日傘を迷わずお買い上げの宗介くん。

「これ、あくまでも日傘で防水性はそんなにないから雨の日は気をつけてね」
「はい。ありがとうございます」
「またどうぞ〜」
「空はなにか買いたいものある?」
「ううん、今日はいいよ」

 喫茶店分とプラスでいくらか持ってきただけだから、一本買えるだけのお金がなくて……。


「じゃあ気を取り直して行こうか。さ、入って」

 入る?
 目をしぱしぱと瞬く。
 入るって、今宗介くんが開けた日傘に?


「い、いいの……?」

 宗介くんのだし、街中で一緒に日傘入ってたらすごく目立つと思うんだけど……。


「もちろん。俺がプレゼントしてもいいけど、この金額は絶対気にするでしょ」
 気にしないわけない……! だって一万円超えどころか一万五千円だもん……! 誕生日みたいな特別なときにもらったとしても気が引けちゃうお値段だよ……!


「だから二人で入れる大きめのサイズ買ったんだよ。ほら、入って」
「あ、ありがとう……!」

 わたしのこと考えて選んでくれてるんだったら、断る方が失礼だよね。
 次からはスーパーで簡単な日傘を買っておくのと、帽子くらいは用意しておこう。

 小さくそう決意して、宗介くんの日傘に入った。