恋愛初心者③〜学園祭は驚きがいっぱい!〜


 翌日。土曜日は午前だけだから、授業が終わったあとは帰るだけなんだけど。
 わたしは飲食OKの休憩室で宗介くんの作ったお弁当に舌つづみを打っていた。


 宗介くんが用意してくれていたのはコロッケサンドとベーコンレタス、目玉焼きサンドにつやつやのシャインマスカット。


「気に入った?」
「うん……! すっごい美味しい!」


「——いつか」

「……? 宗介くん、今なにか言った?」
「ううん、なにも」

 あれ。なにか聞こえた気がしたんだけど、気のせいだったのかな。


 少し引っかかったけど、本人が否定してるなら空耳だったのかな……。

 それにしても全然重くない……! いくらでも食べられちゃいそう!




「あ、あれ、もうない……」

 もう一個、もう一個と食べていたら、お弁当箱は空っぽに。デザートケースに入っていたマスカットしか残ってない。

 わたし、いつの間にこんな食べてたの!?


「俺の一つ食べる?」
「ううん、大丈夫! ただ、名残惜しかっただけだから……」

 宗介くんから横取りするなんて、罪悪感で味がわからなくなりそう……。


「また食べたくなったらいつでも言って。本格フレンチみたいなのは作れないけど、家庭料理とかちょっと凝ったスイーツとかは作れるから」
「うん!」

 でもあんまりねだると迷惑だろうから、自制はしないと。

 自分に言い聞かせてデザートを食べると、爽やかな甘みが口いっぱいに広かった。


「ん! マスカット美味しい!」
「でしょ? こういうの、スーパーで見つけるとつい買っちゃうんだよね。これも昨日帰りに見つけてさ」

 こんな美味しいマスカット、初めて食べるよ……!
 今度は無意識のうちに完食しちゃわないように一粒一粒噛みしめて味わった。




 よーし、やるぞ!

 タブレットを出して、部活中に書いたメモを元にラフ画を描いていく。でも三枚提出するうちの二枚は昨日家で描き上げちゃったから、今日は三枚目だけ。

 いつものラフは大まかな構図と配色だけだけど、投票するなら限りなく本描きに近い状態の方がいいかなって思って服のシワや髪の毛の毛束、小物の描き込みまでやっている。



「ふう……」

 本描きにしてもいいくらい丁寧に描いて伸びをすると、スマホを見ながらノートになにかを書いていた宗介くんが顔を上げた。

「お疲れ様。作業は終わった?」
「うん、あとは提出だけ」

 時計を見てみると、五時半。夏場の最終下校時刻は六時半だから、片付け入れたら学校にいられるのはあと五十分くらい?


「じゃあ、時間かかるかもだし神田珈琲店にでも行く? 晴人が旬の桃使ったスイーツ始めたって言ってたからさ」
「行きたい……!」

 お金は持ってきてるから!

 あ、神田珈琲店っていうのはクラスメイトの神田晴人くんのご両親が経営してるカフェなんだ。
 入学式のあとにあった親睦会で行ったきりだったからぜひとも!

 お母さんにメッセージを入れてから大急ぎで片付け、混む前にすべり込んだ。


「いらっしゃいませー。二名さまでよろしいですか?」
「はい」

 今回対応してくれたのは親睦会のときと同じ男の店員さん。最初は気づかなかったけど今見ると神田くんのそっくりさん。


「こちらの窓側の席いかがですか?」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」

 案内されたのは入り口から一番遠くて奥まったところにある二人席。


 お冷をもらって、さあなにを食べようかな。

 前回はベーグルサンドとオムライスとで迷ってオムライス食べたっけ。

 今日食べてもいいけど、サンドイッチお昼に食べたしご飯系がいいな。



 あ、これにしよう。ビーフカレー。飲み物は前と同じでオレンジジュース。
 宗介くんはミートソースパスタとレモンスカッシュ。

 注文を終わらせたらさっそく本題へ。


「まずは、相談してくれてありがとう。交換日記見る感じ、コンセプトは好きだけど予算についてが心配なんだよね?」
「うん。配分とか……」

「過去の学園祭について俺なりに調べて見たんだけど、俺たち生徒が使える予算が一クラスで大体十万円くらい」


 じゅ、十万円!? お兄ちゃんの高校、予算一万円だったよ!?

 これが学費の高い学校の普通だったり……?


「で、これをどう配分するかは年度ごとにかなり違いがあるみたいで……。たとえばこの例だと教室の一角にフォトスポットを作るので十万使ってる。配分としては、家具に全ベットで衣装と飲食物は一切なし」

 家具……十万円分の……。すごい……。


「で、この年は教室の机とパイプイスを使って設備費用を抑えて、メニュー開発とテーブルクロス、あとはオリジナル食器の発注でほぼ全部の予算を使ってる。それから——」



「お待たせしました。トマトとひき肉のボロネーゼパスタと、ビーフカレーになります」

 注文したメインのご飯が届くまでで、過去五年分の例と予算の配分を教えてもらった。

 お行儀悪いから、話し合いで使ったメモ帳はカバンにしまう。食べるときは食べなきゃね。


 店員さんにお礼を言って、いただきます。

 実はわたし、ビーフカレーは初めて。外食でカレー食べたこともなかったし、家のカレーは豚コマが定番だからね。


 でも、この間の親睦会で食べたオムライスのビーフシチューがけがすごく美味しくて。

 シチューがあんなに美味しいんだからカレーも期待できる! って頼んじゃった。


 舌を火傷しないように……。



 んーーー! 疲れた体に沁みる……!

 カレーなのにごろっと入ったお肉がほんのり甘くて……これは確実に国産のいいお肉だよ……!


 わたし、国産お肉にしかないこの甘みが大好きだから……! これはリピートしたくなっちゃうっ。



 上機嫌でビーフカレーを完食したわたしは期間限定の桃のミニタルトもペロリと平らげて宗介くんが食べ終わるまで幸せの余韻にひたった。

 宗介くんも食べ終わったら切り替えて、話し合いの続き。




 今度は今まで教えてもらった例をもとに、みんなが納得する予算配分案を出さなきゃだから。