「えぇぇぇぇぇぇ!?」
思わず大きな声を上げてしまった。
だって、たくさんほめてもらえたけど、まさか一年生のわたしが大役を任されるとは思わないよ……!
「拒否権はもちろんあるよ。だけど一年生だけじゃなくて、来年はもうポスターを描けない二年生からもこんな票を集めてるんだから、挑戦してみてもいいんじゃないかな?」
え、あ、えっと……。
「な、なんでわたしに……?」
絵が上手な先輩はわたし以外にもいるし、わたしが投票した先輩もお金取れるレベルのイラストを描く人だ。
わたしじゃなくても。
光栄なはずなのに、素直に受け止められない自分がいた。
「なんで……、か……。この気持ち悪い推薦文の通りだよ。これだけの人の心に触れる絵を描いたってことだから」
き、気持ち悪い……?
「これ、推薦状っていうか推しへの愛をつづったラブレターだよね?」
「それだけじゃ紙が足りないですよ。せめてA4サイズはないと」
安西師匠に推薦状を返されたのは「五万までなら出す」と言ってくれた先輩。
「正直、部長のタッチより好きですし」
「言うねえ……」
安西師匠……、黒いオーラが……!
「あ、あの、その推薦状、わたしも見ていいですか……?」
ちょっと気になる……。
「「「え、ダメ」」」
「だ、ダメなんですか……!?」
「牧野ちゃん、あんなの見ちゃダメよ」
「悪い影響が出ちゃうから」
女子の先輩たちがすごい顔で止めてきた。
な、なにが描いてあったんだろう……。
「どう? やってみる?」
うっ……緊張するけど……。
「頑張りたいです……!」
「じゃあよろしく。他の人はそれぞれの作業戻っていいよ。空はここに詳しいこと書いてあるからそれ踏まえて何枚かラフ提出してもらえる?」
「は、はい! 来週までで大丈夫ですか?」
「いけるの?」
「はい。三案くらいなら……」
案出しは慣れてるから、土曜日の夜と日曜日を使えば簡単なラフは描ける。ラフはデジタルだからアナログほど時間かからないしね。
「じゃあ来週の部活の時間に持ってきて。月曜にするか金曜にするかは任せるから」
「はい!」
頑張るぞ……!
えっと、ポスターは校内掲示用でA1、外部掲示用でA2サイズになるんだね。結構大きめだ。
絶対入れなきゃいけないのが制服を着た生徒のイラストで、他は特に指定がない。
文字の配置とデザインはわたしがやらなくてもいいみたいだけど、デザインによっては文字を入れにくいと思うから提出するのはシンプルなのが二枚と賑やかなの一枚にしよう。
提出したラフ画は部長の安西師匠から学園祭実行委員長に渡されて、生徒投票で決まるみたい。
女の子だけ、男の子だけ、複数人の三パターンで構図を考えてみよう。
いつもは絵の具で描き終わったあとに色鉛筆で線を足す感じだけど、今回はいつもの風景画でも人物画でもなくてポップなキャライラストだからね……。
茶色のペンで線画を描いてから色乗せる感じで描こうかな。
制服は深緑だけど、水彩らしい透明感のある明るいイラストにしたいな。
最初の二枚はシンプルに、部活の要素がなくても目をひくイラスト。
三枚目はごちゃっとさせたいから背景に文化部の要素をたくさん詰め込んで……。でも文字が最初に目につくように主張は控えめで……。
「牧野さん。そろそろ下校時刻なるよ」
机にかじりつく勢いでラフ用のメモを書いていると、近くにいた先輩が声をかけてくれた。
周りを見てみると、パソコンを落としたりマーカーをしまったりと部活を終える準備をしている。
「あ、ありがとうございます。すぐ片付けます」
わたしもカバンにタブレットと筆記具を入れて部室を出た。
「空」
「わっ……つめたっ」
下駄箱で靴をはきかえていたわたしは、ほっぺに当てられた冷たい感触に飛び上がった。
「あ、ビックリさせちゃった?」
ペットボトルを持って笑ったのは宗介くん。
イタズラにはまったみたいでちょっと悔しい。
「ちょっとだけだよ」
「部活お疲れ様、途中まで一緒に帰ろう」
「うん。宗介くんもお疲れ様」
「これ、あげる」
そう言った宗介くんが渡してくれたのはさっきわたしのほっぺに当てられたペットボトル。
「いいの?」
「空のために買ったから、もらって」
「ありがとう……!」
これ大好きなんだよね。果汁100%のオレンジジュース。
前に阿部さんからもお礼でもらったけど、わたしのオレンジジュース好きってそんな広まってるのかな?
わたし自身も無意識に選ぶなあ、ってくらいなのに……。
キャップを開けて一口飲む。
うん、美味しい。
「今日の話し合いどうだった? 確か、ポスター制作について話すんだったよね?」
電車の中、スポーツドリンクを片手に宗介くんが話題を振ってくれた。
「うん。学園祭のポスター、わたしが描くことになったんだ。たくさん推薦してもらえて」
「すごいね。緊張すると思うけど、俺もサポートするよ。してほしいことあったらなんでも言って」
な、なんでも……。
「この間俺の手料理食べてみたいって書いてたでしよ? 休日限定にはなるけどお弁当作るし、急きょ欲しい画材とかあったら買いに行くし」
宗介くんの手料理……!
交換日記で宗介くんの夢が家事代行スタッフだって知っていつか食べてみたいって言ったけど、それがこんなに早く実現するなんて……!
負担をかけちゃうのは申し訳ないけど、この欲望には勝てない……!
「じゃ、じゃあ明日のお昼……食べたい……」
「まかせて。洋食がいい? 和食にする?」
しかも選択肢がある……!
「サンドイッチ……!」
意外と食べる機会ないんだよね。
自分で作ってみたこともあるけど、たまごサンドは重くて一つ食べたらお腹いっぱいになっちゃうし揚げ物系は難しそうで挑戦できてない。結局ハムとレタスだけになっちゃうから……。
「そんな簡単なのでいいの? じゃあ張り切って作るから楽しみにしてて。それじゃあ、俺今日こっちだから」
最後に笑顔を残して宗介くんはいつもより二駅分早く電車を降りていった。
「また明日」
こっちを振り向いて手を振ってくれる宗介くんに手を振り返し、嬉しくてゆるんじゃう口角を隠した。


