恋愛初心者③〜学園祭は驚きがいっぱい!〜



 び、ビックリした……。

 中学生であんなハイクオリティな演奏が作れるんだってフリーズしてたらいつの間にか閉幕していた。

 知ってる曲はポップスのアニソンメドレーくらいだったけど、プロの演奏を見てるみたいだった。



 ソロだったら個人個人の力量次第でどこまでも上がっていけるってお兄ちゃんの例で知ってる。

 だけど合奏ってなると全体のバランスとか考えたりしないとだから、あそこまでのクオリティは中々出せないんじゃないかな。
 これは全国レベルだって思い知らされる最高の演奏会だった!


「吹部の演奏って初めて聴いたけどこれCDになっててもおかしくない出来だよね」
「うん……」

 むしろ売ってくださいって言いたいくらいだよ。
 お兄ちゃんのCDを待ち望むファンの気持ちが今ならよくわかる。


 運営側にいると発売を待ち望むっていうよりも、塗り残しみたいな不備がないか心配になったり、ちゃんとショップが機能するかで心臓がドキドキしてたから。
 望めばいつでもプロに弾いてもらえる環境にあったし、CDに対する物欲は薄かった。


 でも! 秀英学園の吹部CDはほしいかも。

 各部活は学園祭以外で営利活動をしてなくて、学園祭では一品につき千円以内って決まりがあるから叶わぬ夢ではあるけどね。


「次は美術部だったよね」
「うん」

 猫背にならないように、背もたれは使わないようにって気をつけてたからそんなに着崩れてないし、すぐに行けるよ。


「私はちょっと直したいけど、ガチすぎるから男子トイレには入れないな……。一回教室戻っても大丈夫?」
「うん、時間はまだまだ余裕あるから」

 女の子の姿で男子トイレに入るくらいだったら多少遠回りになっても教室に戻った方がいい。

 お客さん立ち入り禁止になってる生徒用の階段を使って教室に戻り、宗介くんはへにょっとなった帯を締め直した。


「ありがとう、待っててくれて」
「ううん。もう大丈夫?」
「バッチリ。じゃあ行こっか」
「うん!」

 入る人よりも出る人の方が多くなってきた部活動棟。美術部は三階の一番奥に部室があるけど、展示はその隣にある準備室の更に隣。展示室でやっている。

「この学校の美術部ってなにやってるの?」

「んー、人によるかな。神田くんはジオラマ作ってるけどわたしは絵を描くだけだし、先輩の中には3DモデリングとかLive2D作る人もいるよ。絵しか描かないのはわたしと部長くらい。体育祭とかでパネル作るときは全員でやるけど、それ以外は基本自由なんだ」

 秀英学園は美術部に限らず部活目当てに受験する人も多いからやる気ある人ばっかりだし、イベントのときにだけ集合っていう方が合ってるのかも。


「じゃあ文化祭に向けて全員でなにか制作したり?」
「それはやってないよ。個人個人で文化祭に向けて作品を作って展示する感じ」

 わたしが提出したのは学園祭のポスター絵とアクリル絵の具の風景画。宗介くんと両想いになった阿部さん家別荘近くの海岸がモデル。


 キャンバスに描きたい気分だったからアクリル絵の具にしたけど、そのあと水彩でポスター描くことになったから画材がダブらなくてよかったと思ってる。

 あとは学園祭用のポートフォリオも作ったね。

 展示室の近くまで行くと、気づいた先輩たちが歓迎してくれた。



「お疲れ様〜!」
「お友達もゆっくりしていってね〜」

 オレンジジュースももらってしまった。
 わたしの好み、なんでこんなに色んな人に知られてるんだろう……。


 まあいっか。こうやって好きなものプレゼントしてもらえるんだから。
 先輩たちにお礼を言って、展示室の中に入る。


 一番手前が三年生の作品。
 部長の安西師匠は入ってすぐのところにアクリル絵の具のこれは……キジとオオムラサキかな?
 確か日本の国鳥と国蝶だったよね。


 わたしの地元では見たことないけど、この間「夏休みに地元帰ったら駅出た瞬間キジにめっちゃ鳴かれてさー」って笑ってたから安西師匠の地元ではよく見る鳥なのかな。


 オオムラサキはわたしも見たことある。お盆におじいちゃん家に行ったとき、これはご先祖さまだから大切にするんだよって言われてた蝶。
 間違っても羽を触ったりわしづかみにしたらダメだとも言われたな。

 どちらもオスの体色がイラスト映えするんだよね。オオムラサキは瑠璃っぽい色で、キジは鮮やかな赤や青、宝石みたいな緑色、羽の朱色も美しい。

 ド派手な“こくちょう”コンビは集大成って感じだ。



 そしてなによりも、キャライラスト以外全然描かない安西師匠が描いた蝶と鳥、よすぎる……!

 写真撮影NGじゃなかったら激写したかった……!



「おっと、お触り禁止だよ」
 絵に見入っていると、安西師匠の静止する声が聞こえてきた。
 横を見ると、宗介くんが絵に伸ばした腕をあわてて引っ込めるところだった。

「すみません、無意識でした……」
 思わず手を伸ばしちゃうくらい宗介くんに刺さったんだ。自分の作品じゃないけど、すごく嬉しい。

「わざとじゃないって見たらわかるからいいよ。どう? 感動してくれた?」
「「はい……!」」

 声は抑えめに、二人そろって安西師匠の問いかけを全力で肯定した。


「あの、これはお金で買えるものですか」
 宗介くんがミニバッグに手をつっこむ。

「そんなに気に入ってくれたんだ。なら、ポストカードサイズにしたのを売ってるよ。一枚七百円だけど……」
「買わせてください。あと、空のもあればそれも」

 キャラクターものでもポストカード一枚じゃ五百円しないものが多い中での七百円はかなりの強気価格。


 安西師匠は「安くして売られでもしたらキレる自信がある」って言って最初はもう少し高めに設定してたんだけど、かなーり譲歩しての七百円。二枚買ったら千円超えちゃうよ。


 わたしもお兄ちゃんのCD転売されて怒ったことあるからプロとして活躍してる安西師匠がそう言うのは理解できる。反対はできない。
 宗介くんは二枚ずつのお買い上げ。三千円近い出費なのに、宗介くんはほくほく顔。


 三千円って、この間わたしが買った日本製のいい額縁と同じくらいだけど……。

「いい買い物ができた……」
「よかったね、宗華ちゃん」
「うん」

 袋を大切そうに抱えて笑った宗介くんの顔が凍りついたのはその直後だった。



「その声……宗くんじゃん」

 目を見開いたまま固まった宗介くんの向こう側に立っていたのは、ツインテールの女の子。年齢は十歳くらい。





 えっと……誰かな?