恋愛初心者③〜学園祭は驚きがいっぱい!〜


 カランカラン

 ドアにつけられたベルが鳴り、わたしは笑顔で振り向く。

 元気すぎず、おしとやかに。


「いらっしゃいませ。何名さまですか?」
「ふ、二人です」

「当店お食事と写真撮影の二つご用意しております。どちらにいたしますか?」
「しょ、食事で……」
「店内でお召し上がりになりますか?」
「それでお願いします……」
「ご案内します」

 練習し始めはつっかえちゃったセリフもしっかり言えてる。


 わたしの顔だと、元気系の接客よりも落ち着いた接客の方が似合うって言ってもらって練習したけど、最初はそれはひどいものだった。


 接客なんてやったことないし、アルバイトの経験もゼロだったし、そもそも友達いなかったから、見ず知らずの人に自分から話しかけるっていうのがハードル高くて……。



「こちらのお席にどうぞ」
「は、はい」
「どうも……」

 わたしが席に案内すると、スッとお水とメニューが置かれる。月乃さんだ。

「お決まりのころお伺いします」
 ここでわたしが月乃さんにバトンタッチ。

 次のお客さんか、お会計のお客さんが来るまでは宗介くんと配膳担当。注文があれば取ってキッチンに届けることもする。


 大変だけど、色んなところを飛び回るから結構楽しいんだよね。

「あ、お姉さん。注文いいですか?」
「はい、お伺いします」
「ブドウのクリームソーダ二つと、ピザトースト一つ、フレンチトースト一つでお願いします」
「かしこまりました」

 料理の名前が載ってる注文票に席番号とチェックを入れて、メニューを回収したらキッチンにいる三人に料理名を伝えて持ち場に戻る。


 部活の先輩とか家族が来て驚く顔を心の中で楽しみつつ、服に見合う表情は崩さずに。

 女子の先輩たちからフォトスポットで一緒に写真が撮りたいと言ってもらえたので、一瞬だけ抜けて写真撮影。男子の先輩たちは自撮りして帰っていった。

 出入り口に置いたポストカードを「あ、空ちゃんの絵」と持って帰るのも忘れずに。


 よくわたしの絵ってわかるなぁ、と関心しながら食べて行かないのか聞いてみたら、安西師匠一人に部室を任せて来たから早く戻らないといけないんだって。
 だから三年生一人だけ来てないんだ。
 そういうことなら早く戻ってあげてください。



 先輩たちが戻ってしばらくして。

 安西師匠は写真撮影とクリームソーダのテイクアウトをして帰っていった。


 テイクアウトの人にはテイクアウト用ボックスからランダムでポストカードを袋に入れてるんだけど、一瞬見えた絵はツバキ。


 五十枚に一枚くらいしか入れてないシークレットを引くなんて、なんと運のいい。
 他の絵と違ってポートフォリオにも入れてないから、一瞬見て首をかしげていた。

 お会計のところに置いてあるポストカードの見本を見て、手に入れた絵がシークレットだと気づくと口だけでお礼を言ってくれたけど……。

 わたしは裏返された状態で渡してるから選んでるわけじゃないですよ。安西師匠の引きの強さを知った。

 スキップで帰っていく後ろ姿を見ながら、他の先輩たちに自慢するだろうなぁ、と思う。
 シークレットはフォトスポットには置いてないし、安西師匠以外の先輩たちは時間の関係でなにも買えてないから。


 もしかして、最初を譲って一人で部室に残ったのってこれが目的だったり……?

「あの〜、持ち帰りいいですか?」
「はい、メニューこちらになります」

 いけないいけない。今はお仕事に集中しなきゃね。
 急に声をかけられて口から飛び出そうになった心臓を飲み込んで、お客さんにメニューを渡した。



 給仕をする中で「このあとどう?」とか年上の男の人に声をかけられて、気づいたらお店にいなくなってたというホラー展開もあったけど、目立ったトラブルはなかった。

 あの人たちのお会計わたしやってないけど、宗介くんか月乃さんのどっちかがやってくれたのかな?


 ああいうのをナンパって言うんだよね、多分。
 されたのは初めてだけど……。

 お祭り気分のまま気まぐれで声をかけたんだろうけど、宗華ちゃんでも月乃さんでもなくわたしが選ばれたっていうのはなんだか嬉しい。
 桐谷くんのお化粧に負けてないってことだもんね。



「ふう……」
 開店から一時間もすると考え事をする余裕もなくなるくらい忙しくなって、息つく間もなくフロアを移動していた。

 持ち帰りでさえ二十分待ちとかになって即席の番号札を作って配ったりもした。




 よ、ようやく十二時……。

 今日はもう使わないエプロンを取って一度教室に戻り、カバンにしまった。髪はお下げに戻して、着物に合わせて持ってきた細い真紅のリボンでヘアゴムを隠した。

 宗介くんも一緒に来てくれたから混んでないルートで優雅に戻れた。わたし一人だったらきっと帯がぐちゃぁってなってただろうな……。


 ミニバッグに貴重品と学園祭パンフレットを入れて、着崩れチェックとメイク直しを済ませたらまずはホール。

 お腹減った気がするけど、ご飯と違って演奏会は逃げるから。


 吹部の演奏会はチケット代が必要だけど、生徒が学園祭で見るときだけは生徒用の席が用意されている。
 四階席だから個人の顔までは見えないけど、音は聞こえるから問題なし。


 一般席はもちろん、生徒用の席も満席。開いてても一席とかのバライスたち。

「ただ今より第三十回、秀英学園大学附属中学校、オータムコンサートを開幕いたします。お立ちのお客さまは、お手元のチケットに記載してある座席へご着席ください」

 始まった……!
 全力で楽しむぞ!



 着崩れない程度にだけど……。