ついに学園祭当日。
着物とエプロンを持って、ミサンガを手首に結んで家を出た。
学校の近くには、まだ始まるまで二時間くらいあるのにもう列ができてる。
しかもあのカメラ持ってる人たちって……。て、テレビ局!?
文化祭の予算もだったけど、改めて秀英学園のすごさを実感した。当たり前のように複数のテレビ局が来る中学校の学園祭なんて見たことないもん。しかも、結構な大手が。
何人かがインタビューのために呼び止められているのを見て足早に昇降口を抜けた。
ふう……。もし声をかけられたら悲鳴をあげる自信があったからよかった。
教室にあるカーテンで仕切れる簡易的な更衣スペースで着物に着替えたら、持ってきた道具を机に広げてメイクとヘアセット。
A組の机って普通のより面積あるから便利なんだよね。教卓くらい大きい。でも教卓も小学校のより明らかに大きいから……。うーん、横一メートルくらいかな?
パソコンと教科書並べても手前にA4サイズのノート置けるくらい奥行きもある。
こういう使い方を想定してるかはともかく、作業がやりやすいのはいいことだよね。
ほぼ毎日練習したおかげで、我ながら和風美人が作れたと思う。
化粧直し用の道具もポーチに入れてと。
さ、特別室に行こう。
特別室に着くと、“お着替え中 少々お待ち”の札が。この字は阿部さんかな。
じゃがいものゆるキャラみたいなのが描いてあるけどこれは……なんだろ。可愛いから写真に残しておこう。
「うわ、生で見ると完成度えぐいな」
「お米のCMに出てそう」
「え、これ一人で着れるってマジか」
「やばい惚れ直すって」
廊下の向こうから来たのは蘇我くん、咲間くん、永野くん、神田くん。
最後にボソッとつぶやかれた神田くんの言葉は聞かなかったことに……。
「神田ってフラれたんじゃなかったっけ」
「よく宗介とやりあってるよな」
「すげー……彼氏感つよ……」
したかったなぁ……。
でも神田くんはそういったこと直接言ったりしてこないから、そんな人が思わず口に出しちゃうくらい完成度が高いってことだよね。
自信つく。
しばらく待ってると、カーテンとドアが開いて桐谷くんが出てきた。
「お待たせしました。どうぞ」
相変わらずの完成度だ。
「あ」
うん?
「今日一日、名前呼び禁止です。女装喫茶ではないので、ゆうゆうとか、ゆうとか、苗字にさん付けとか、性別が特定されにくい呼び方にしてください」
うっ……難しそう……。その感じだと、宗介くんと斎藤くんもだよね……。
安直にさん付けでもいいけど、宗介って名前は女の子だとなかなかいない。でも、名前で呼べるようになったのに苗字呼びに戻すのもなぁ……。
本人に聞いてみよう。
「呼び方か……。なら、宗華とかにしようかな。最初二文字が同じだから宗介って呼びそうになっても途中で修正できる」
「宗華さんって呼べばいいかな?」
「うん。できそう?」
「多分大丈夫」
阿部さん、月乃さん、桐谷さん、斎藤さん、宗華さん。
顔がそのままだったら慣れでそのまま本名言っちゃいそうだけど、あまりにも女の子だから多分大丈夫。
「午後はおれ……じゃなくて、私もシフトないんだけど、二人で回らない?」
「……! 回りたい……!」
わたしたちのお店では女給が三人、キッチンが三人のシフト割。
ちょうど六人ずついるから、午前と午後に分かれて担当することになってるんだ。
午前の女給はわたしと宗介くん、月乃さん。午後は桐谷くんと斎藤くん、阿部さん。
「どっか行きたいとこある?」
「美術部の三年生が作品作ってるから、それ見たらパンフレット見ながら回ろうかなって思ってたよ」
「じゃあ俺もそうする。高等部と違ってバスケ部はなんもやってないからどこ見ればいいか迷ってたんだよね」
高等部と違ってってことは、高等部は運動部も学園祭でなにかやるのかな? 中等部はバスケ部だけじゃなくて、他の運動部も出し物がないけど……。
高等部は明日だし、予定ないから行ってみようかな。先輩美術部員の作品も気になる。
「十二時交代だから、ちょうど吹奏楽部の出し物に行けそうだね。ほらこれ、半から入学式やったホールで開始だって」
「わっ、じゃあ先にそっちから行きたいな」
部活勧誘、美術部を心に決めていたわたしには無縁のものだったけど、秀英学園の吹部は全国大会レベルだって聞いたからね。
身内に音楽人間が二人もいる影響でクラシックは多少かじってるし、知ってる曲あるといいな。
「宗……華ちゃんはクラシックとか聴いたりする?」
あ、危ない……! 本名で呼んじゃうとこだった……! 勢いでちゃん付けしちゃったけど怒ってない……?
「んー……集中したいときに気に入ったのループする感じかな。そんなたくさんは知らない」
よし、怒ってない! 呼びやすさ重視で宗華ちゃんにしよう。
「おーい! 最終確認するぞー」
「あ、はーい! 行こ!」
「ん。十二時までがんばろ」
蘇我くんからかかった声にパンフレットを置いてみんなのところへ向かった。


