恋愛初心者③〜学園祭は驚きがいっぱい!〜


「おはよー……って、大丈夫……?」
「うん、おはよ……」


 結局なんにも思い浮かばなかった……。
 声をかけてくれた月乃さんに手を振って自分の席に着く。

 今日の目覚ましはイスの上で聞いたから、多分交換日記書いたあと寝落ちしちゃったんだよね……。

 朝考えようって思ってた学園祭の案も上手くまとまらなくて、電車では爆睡。


 今までに経験したことがないくらい眠い……。

 授業始まるまでにどうにかしなきゃ。目覚まし代わりに炭酸水で顔を洗ってみるとか?


 ……だめ。目に大ダメージが入りそう。


 お絵描きでもする?
 常に頭を使うから、眠気もそのうち吹き飛ぶかな。

「おはよう、空。寝不足?」
「おはよう、宗介くん。ちょっと寝不足かな……」

 宗介くんがわたしのノートを見て、「ちょっとどころじゃないよね」と冷静にツッコミを入れた。



 わたしが今描いてるのは、起きるマンたち。全身タイツで顔に大きく“起”の文字が書いてある。
 戦隊ヒーローで最初に出てくる敵みたいな見た目だぁ。


「そんなことしても無駄だから、授業始まるまでちょっと寝たら? チャイム鳴る前に起こすから」
「ありがとう……!」





「——そら、五分前なったよ」
 ん……。

 パチリと目が開いた。
 眠気は、ウソみたいに消えている。

 すごい! 教室だと三十分も寝てないよね!?


「疲れが飛んだ気になってるだけだから、今日はちゃんとベッドで寝るんだよ」
「うん、ありがとう。そうするね」

 わたしは朝に強いけど、寝不足には慣れてないから……。


「悩んでたのって、昨日のことでしょ?」
「わ、わかるの?」

「まあね。今日、学級会のあと時間作れる? 部活あるなら明日土曜だし午後二人で話そう」
「じゃあ、明日でもいいかな。今日は学園祭のポスター作りの話し合いがあって……」
「いいよ。明日なら時間いっぱいあるし」

 優しい……!
 宗介くんだって忙しいのに……。


 今日の学級会でちょっとでも、せめてどこにお金をかけたいのかは把握して、この学校の普通に慣れておかなくちゃ。


 授業を寝ずに乗り切り迎えた学級会。


「お金かけるならやっぱ内装だよね。コンセプトで一番大事そうだし」
「そしたら服がコスプレみたいになっちゃう!」
「やっぱりメニューでしょ。文化祭クオリティとか言われたくないし」

 と三つの意見が対立してしまった。

 こだわりたい三者の意見はもっともだけど、服はコスプレでもいいのありそうな気がするのは私だけ?


 誰も一歩も譲らないまま、自分の派閥にお金をかけるメリットだけがわたしのノートにメモされていく。
 宗介くんは特になだめたりとかはしてないから、今は意見をたくさん出すのが目的なのかな。


 たくさん意見は出たけど、学級会の四十分でまとまるわけがなく。明日、これについても話し合えたらいいな。

 学級会が終わったら放課。

 なぐり書きをしたノートの重複メモ分を消して急いで部室に向かった。



「じゃあ全員そろったってことで、ポスターを描く人を決めまーす。イラストは専門外って人も多いから、部員からの推薦って方法を取ります。あ、三年生は対象外だから気をつけてね。十分くらいあれば決まるかな?」

 うーん、誰を推薦しようかな……。

 三年生が対象外だから一、二年生になるんだけど、あんまり個々人のイラストって見たことがないんだよね。


 部長の安西師匠のイラストだけはたくさん見たんだけど、この学校の美術部員って今年の一年生に限らずお絵描きしない人が多いんだよね。美術部の設備目的で受験する人もいるみたいだし。


 神田くんは3Dプリンターでミニチュア制作をしているし、刺繍だけする人とかゲームみたいな本格的なモデリングをする先輩もいる。
 配信者さんのライブ2Dを作ったことがある先輩もいて……。

 そういうのばかり見てきたから、ポスター向きかって聞かれたときに即答できない。


「あ、あの」

 質問しよう。このまま悩んでたって消去法でしか投票できない。そんなの失礼すぎるよ。


「どうしたの?」
「候補者のイラストポートフォリオがあると嬉しいのですが……」

「あ、確かにそうだね。持ってくるからちょっとだけ待ってて」
「ありがとうございます……!」
「三年生手伝ってー」


 少しして、全員分のポートフォリオがそろった。
 わたしは毎日描いて提出して、夏休み分も出したから一人だけみっちみち。しかも、最大百枚入るファイルが二冊分。


 わたしのファイルをのぞいた先輩がボソッとつぶやいた「半年でこんだけ描いたん……?」とビックリしてくれて、なんだか誇らしくなった。

 元々水彩画は好きだったんだけど、どんどん上達するから今以上に好きになっちゃって。



「牧野さん……このクオリティでよく量産できるわね……」
「部長が目をかける理由がよくわかるわ」
「個展開く気ある? クラファンするなら協力するよ」
「五万までなら出せる。一枚でいいからほしい」

 ほめてもらえて嬉しいような、くすぐったいような。


 でもだんだん恥ずかしくなってきちゃったから、愛想笑いを残してほかの人のポートフォリオを見ることにした。

 推薦できるのは一人につき一人だけ。票の数も大事だけど、それと同じくらい大事なのは推薦理由。


 ポスターは駅とか役所、市が管理してる掲示板にも貼られるから責任重大なんだ。


 だから、印象に残った一枚を比べて一番目をひく色使いだったり構図で描いてある絵を選んで投票した。
 絵が上手でも気が乗らなかったら意味ないから、なるべくイラストを専門に活動してる人を選んだ方がいいよね。


 そうなると、候補は三人。みんなデジタルイラストが専門で、風景画よりもキャラクターデザインが多いみたい。

 その中で一番好みの線と色使いの人に投票し、提出した。
 わたしは結構早く投票したみたいで、他の部員はまだ書き途中。


「はーい、十分経ったけどあとどれくらい必要?」
 ピピピ、と鳴ったストップウォッチを止めて張られた声に、「「「「「あと推薦理由だけです!!」」」」」と元気な返事がされる。


 三行分だったから短めでいいと思ったんだけど、もしかしてウラまで書かないといけなかったかなっ……。


「あと一分で終わらせなー」
「「「「「そんな……!!!」」」」」

 またみんなの声が被った。
 台本読んでるみたいに息ピッタリだ。


 そして宣言通り一分待った安西師匠は抵抗をものともせず推薦状を回収。

 一瞬見えちゃった神田くんの推薦状、両面真っ黒だったけどなに書いたんだろう……。


「集計するからちょっと待ってて」

 みんなから回収した推薦状を見た三年生の先輩たちは一瞬わたしを見て、推薦状を見て、もう一度わたしを見て絞り出すようになにかをつぶやいてた。

 なにかまでは聞き取れなかったけど、もしかしてわたしなにかしちゃった!?
 やっぱりわたしだけ圧倒的に文章量少なかったよね……! 書き直したい……!


 コソコソと話す先輩たちの答えをドキドキしながら待つこと十秒。


「決定ー」
 恐ろしいスピードで決まった……!?

「圧倒的な支持を集めたのは——」
 だ、誰になったんだろうっ……。


「一年生、牧野空さんでしたー」
 わー、パチパチー。



 ……うん?

 牧野空さん……?