恋愛初心者③〜学園祭は驚きがいっぱい!〜


 メッセージでは断られちゃったけど、対面だったら……!

 そう思って授業終わりに突撃した結果。


「今からできることといえば足りない電飾の買い足しくらいだけど、空は大変でしょ? 俺一人でパッと行ってくるよ」
 気を遣ってくれてるはずなのに、つき放されてるように感じるわたしは相当ひねくれてるのかな……。


「た、大変じゃないよ……! 作業は家でもできるし、わたしもなにかやらないと……」
 なにか、なにか……。


「空……? なんかあった? 顔色悪いよ」
「大丈夫……! 大丈夫……仕事、できる。やらないと……」
「大丈夫な人の顔色じゃないよ。クマだってできてるし」

 目元を親指でぬぐわれる。普段ならドキドキして、嬉しくなるはずなのに、今日はなぜかなんにも感じない。

 確かに昨日のことが気になってあんまり寝れなかったけど、一日くらいなんとかなるから!



「今日はもう帰って休んだ方が……」
「そ、そうだよ。空ちゃんはイラストもあるでしょ?」

 ここまで言っても、わたしはなにもやらせてもらえない……。



「わたしが、役立たずだから……? だから仕事やらせて——」
「そんなわけないだろ!」

 わたしの声に被さるように秦くんが声を荒げた。




「っ……! ご、ごめんなさい……」

 どうしよう、宗介くんを、滅多なことじゃ怒らない宗介くんを怒らせてしまった。



「……いや、俺も怒鳴ってごめん。ほんと、ごめん……」
「っ、空ちゃん」
「阿部さん……」
 わたし、どうしたら……。


「あたし、空ちゃんのこと役立たずだなんて思ったことない!」
「そうだよ。学園祭のポスターだけじゃなくてクラスの看板も一からデザインして、飾る用の絵もポストカードまで描いてくれてるし」

「しかもオレたちのリクエストまで聞いてくれてさ。なかなかできないよ」
「僕リクエストの掛け軸まで描いてくれましたし」



 え……?

「誰になに言われたかは知らねーけどさ。メニュー班のために喫茶店行って資料集めてくれたり、内装班のためにイメージイラスト描いてくれたり、衣装だって練習して一人で着られるようになったらしいじゃん」
「蘇我の言う通りだ。MVP決めるなら、全会一致で牧野だと思うし、僕もA組に牧野がいてよかったと思ってる」

 でも、わたしは委員会の仕事、全然できてない。客観的に見たら、役に立ってないんだよ。


「空っ……!」
 宗介くんに肩をがしっとつかまれた。

「空はいつも集まりのとき、俺の代わりにメモとって、次の日までにわかりやすくまとめてくれる。予想される質問とその答えとかも一緒につけ足してくれるから、いつも進めやすいって思ってる。話し合い用の資料作ってくれるから委員会のときもやりやすい。空は役立たずなんかじゃない。外から一瞬見ただけじゃわかりにくいってだけで、空はちゃんと役に立ってる」


 わかりにくいだけ。
 役に……立ってる……。

「だから、これ以上の負担をかけたくなかったんだ」
 議事録をわかりやすく付けるのはわたしの仕事だし、時間をかければできるから、特別な技術が必要なわけでもない。
 なにも負担じゃない。


「昨日、見る目のない人たちにも同じこと言ったけど……。空の代わりは俺じゃできないし、遠慮しながらもたくさん意見を出してくれる空はクラスに必要な存在だよ。それに、その場にいた実行委員長だって言ってた。いつもみんなのために頑張ってる空は役立たずなんかじゃないって」

 委員長が……。
「わかってくれた?」

 こくんとうなずいた。


 見ず知らずの人の「役立たず」って言葉を信じきって、大切な人たちのことまで信じられなくなるところだった。


「怒鳴っちゃってごめんね」
「ううん……ありがとう」

「食器届きました……って、なんですか、この空気」
「な、なにかあったの? ケンカ?」


 先生から荷物を受け取りに行ってきた桐谷くんと斎藤くんが戻ってきたことで、教室はいつものさわがしさを取り戻した。

 わたしはやっぱり顔色が悪いってことで帰ることになっちゃったけど、突き放されたような冷たさは感じなくなっていた。


◇◇◇
side 宗介

 空を最寄り駅まで送り届けた俺は、唇をかんで心の中で悪態をついた。


 相手はもちろん、昨日の女子生徒たち。

 俺が可哀想とか、空がサボってるとか。
 俺たちにとってどれだけ空が大切で、絶対欠かせちゃいけない存在か全然わかってない。


 しかも本人に聞かれるとか、どれだけ迷惑かければ気が済むんだろう。

 強めに否定したのに乗っかる形で委員長も「空はこの委員会に必要な子だ」っていってくれたから俺も矛をおさめたけど。

 空がいなかったら学園祭のポスター投票は盛り上がらなかっただろうし、空の存在は大きい。
 集計結果は一番賑やかなものだったけど、あと二つの候補とはほとんど票差がなかったらしい。まず、学園祭のポスター案をほぼ完成形の状態で三つも描いてくるのも前代未聞だったみたいだし。


 本人はカラーラフであって清書はもっと細かいところをこだわるつもりだって言ってたけど、正直あれでも十分だと思う

 それなのに、なにも知らない外野が勝手に空を低く評価するとか。おかしい。

 空は最終的に納得してくれたけど、役立たずだって言われた傷が消えるわけじゃない。


 余計なことしてくれたな。

 さっき、なにかしないと自分はここにいちゃいけない、みたいな言い方をされた。全然そんなことないのに。



 空はいつだってみんなのことを考えて行動する。いや、みんなのこと以外は二の次で行動する、の方が正しいか。

 どれだけ自分の負担が増えたとしても、それが全体のためになるならって。絵だって本当ならお金取ったって誰も文句言わないのに「学園祭のは特別だから」って無償で引き受けてた。


 一枚や二枚じゃない。二十枚は軽く超えるはずの。



 そんな空に怒鳴った自分はなんて愚かなんだ。

 いつだったか悠人に「ケンカでもしてみたら?」とか言われたけど、想像以上にあとがしんどい。
 八つ当たりで元凶女子にもう一回釘刺しときたい気分だ。



 そんなことしたら空に嫌われるだろうからやらないけど。




 思い出したらまた怒りが……。

 部活行って自主練でもするか。