宗介くんが部屋に入った瞬間、口を押さえて固まってしまった。
顔がすごく真っ赤だ……。
「だ、大丈夫……?」
心配になって顔をのぞきこんでみたけど、瞬きひとつしてない。
「忠告したのに」
宗介くんの後ろに立っていた桐谷くんが、スパーン! と頭をひっぱたく。
「はっ……俺はなにを……」
あ、帰ってきた。
「記憶を失わないでください。あまりに役立たずだと放り出しますよ」
「鬼か!」
鬼だ……!
「さっさと写真撮ってください」
「……りょーかい」
宗介くんが撮ってくれた写真は全部で六枚。
一人ずつと、集合写真。
「内装の参考になると思うのであとで共有しておいてください。さ、これから着替えなので出てった出てった」
「え、あ、ちょ……暴君……!」
つまみ出された……。
「脱いだら畳み方も教えます。何度同じ質問をしても構いませんので一人で畳めるようになってください」
はっ……! 今は自分のことに集中しなきゃ。
畳み方を間違えると変なクセとかシワができちゃうのは洋服も和服も同じ。
特に今回は借り物になるんだし、ちゃんと自分で管理できるようにならないと。
「そこの線を……」
「それだとシワになります」
「あ、そこクシャってます」
たくさん時間を使ってもらって、図解メモも取らせてもらって、なんとか一人で着物と長襦袢を畳めるようになった。
形はほぼ同じなのに畳み方が違うのややこしい……。
「あとで、それ写真に撮ってもいい? 忘れそう……」
「うん、もちろんいいよ」
不安そうにしていた斎藤くんに個人チャットで図解メモの写真を送り、化粧を落とした。
ああ……素朴……。
化粧を落としたわたしは、見慣れたいつもの顔……のはずなんだけど、なぜかいつもよりも地味に見える。
「どうしましたか」
「ひょっ……」
へ、ヘンな声出た……! 恥ずかしい……。
「き、桐谷くん……」
「なにか思い悩んでいるようでしたので」
「な、なんでもないよ」
化粧を落とした自分の地味さに打ちひしがれてた、なんて情けなくて言えない……。
「貴方はそのままで十分だと思いますが、変えたいと思うならまずはその前髪を整えたらどうでしょう。今は少し重めなので、垢抜けない印象を受けるのかもしれません」
「あ、ありがとう……」
心読まれた……?
「鏡に向かって素朴と言っているのを聞けば、大体察します」
うぐ……。声に出ちゃってたんだ……。
「本人にはわからないかもしれませんが、四月に比べて肌の状態がよくなっています。素朴な顔立ちだったとしても、肌ツヤがよければ何を着ても映えるものですよ」
肌ツヤかぁ。
自分のほっぺをツンツンとつついてみる。
阿部さんと月乃さんからアドバイスをもらって頑張ってはいるけど、やっぱり自分じゃわからないな。
「自信のなさは貴女の課題ですね」
ごもっともです……。
自信たっぷりな女の子に憧れてるんだけど、自分がそうなるのはまだ難しそうで……。
「まあその辺は時間が解決することもあります。はい、今日使ったものは一式包んでおきました。少し重くてかさばりますが、持ち運ぶときはこの中に入れてください」
「うん、わかった。色々教えてくれてありがとう」
「僕は……皆で楽しむ行事というのが意外と好きなのですよ。だからこうしているのは僕のためです」
「はい、そこまで」
桐谷くんの後ろからそう声がして、その顔に米袋がズボッと被せられた。
「どこから持ってきたんですか」
被せられた袋をビリッと破いて脱出、宗介くんを振り返る桐谷くん。
「古紙回収用の近くに置いてあった」
「返してきなさい」
半分に破れた袋をさらに破いてかさばらないようにしてから宗介くんに渡す手つきは玄人。
どこからか持ってきたスズランテープで簡単にまとめるのも忘れずに。
ママだ……。
「……俺は着付けできないし、悠人は男の俺から見てもきれいな人だし、優しいし……俺なんか空の心を繋ぎ止めたいってことしか考えてないダメなやつだけど……」
え、っと。宗介くんはなにを……。
わたしの心を繋ぎ止める?
すでに繋がれてるわたしの?
「はぁ……。僕はノロケを聞くために呼んだんじゃありませんよ。うちはノロケハラスメントお断りです」
の、ノロケハラスメント!?
「俺は……空にずっと好きでいてもらいたい。空には生涯俺だけを好きでいてもらいたい……」
「……!」
わ、わたしなにか不安にさせた……!?
宗介くんにこんな泣きそうな顔させちゃうなんて……い、今までの言動を思い出して……。
文脈から桐谷くん関係でわたしがなにかやらかしてるはず。
交換日記には宗介くんとわたし以外のことは書いてないから、リアルでのやらかしっていうのは確定してるけど……。
「あ、あの、宗介くん……!」
「……?」
ええい! 恥ずかしがるな! なるようになれ!
「わたしが今好きなのも、今後好きになるのも宗介くんだよ。なにか不安にさせちゃったなら直すから……わたしの悪いところ教えてほしい……!」
「…………だけ」
「え?」
「嫉妬した、だけ。空と悠人が近くて。空が心変わりしたらって思ったら、これ以上悠人を見てほしくなくて……」
「っ……!」
わたしが着付けを一人でできなかったせいだ……。
確かに他の男の子に着替えを手伝ってもらうのはよくなかったよね……。
考えが足りなかった。
「わ、わかった! 学園祭までに勉強して桐谷くんに手伝ってもらわなくても帯まで結べるようになる! あと二ヶ月以上あるから、多分なんとかなるよ」
今日桐谷くんにやってもらったのは一重太鼓という有名な結び方。
検索すれば動画も出てくるだろうし、お教室に通う手だってある。
「宗介」
「な、なに」
「いくら知識があったとしても、意識している男に女性が着替えを手伝ってもらうはずがないでしょう。今から女性用の帯結びだけ教えるので死ぬ気で覚えてください。牧野さん。申し訳ないですが、これ、玄関に置いてきてもらえますか?」
「う、うん!」
スズランテープでまとめられた米袋を受け取って、玄関に置いてあった他の古紙の近くに戻した。
「嫉妬……」
させちゃうなんて。
もっと気をつけなくちゃな……。


