「それじゃあ、宗介はここで待っててください」
居間にビデ通用のパソコンを用意され、「絶対に中を見るな」と念押しされた。
これから着替えなんだし、気になっても呼ばれるまでは行かないって。
ビデ通の準備ができたことをメッセージで伝え、秀英学園生徒用アプリから会議開始のボタンを押した。
『やほー』
最初に通話に参加してきたのは晴人。風呂上がりなのか、首にタオルを巻いたメガネスタイルだ。他三人はまだ既読にならないから風呂か夕飯だろう。
『そこ悠人ん家? すごい大きいんだね』
「そ。俺も初めて来たけど、今写真に収めたいのガマンしてる」
人の家でそんなにはしゃぐものじゃないし、リミッターが外れた俺は面倒臭いと自覚しているから。
この間の強化合宿でも旧松林邸に感動するあまり大雨の中「あと五分……五分だけ……」とゴネにゴネて班員をびしょ濡れにしたしな……。
『ははっ、宗介のキャラ変オレも見てみたかったわ。中間のあと行った小旅行んときはめっちゃ落ち込んでたからなぁ。今じゃベタボレ彼氏になっちゃって……』
「うっさい」
仕方ないだろ。空が他の男からの告白OKしたんだと思ったんだから。
しかも相手は「康太くん」って名前呼びされてたし。まあ、今は俺も名前で呼んでもらえるようになったけど。
『うわぁ……恋敵のニヤケ面ムカつくわ……』
そっちが振ったくせに。
『お、俺二番手じゃん。めずらし』
しばらく二人で雑談をしていると、洋一が入ってきた。本人が珍しいと言っている通り、初等部では有名な遅刻魔。派手な遅刻することはなかったけど、二、三分遅れることは日常茶飯事だった。
中等部からは正そうと努力していて目覚ましを三つに増やしたらしく、今のところ遅刻はない。
『永野くんこんばんは〜』
『おう。神田って家だと雰囲気違うな』
『髪セットしてないしメガネだからかな? どっかヘン?』
『いいんじゃね? 俺そっちの方が好きだし』
口説くな。
『マジかぁ。なんか照れるわ……』
お前は照れるな。
晴人が空の言ったこと以外で照れるのはなんとなく見たくない。解釈違いというか。
『わり、メッセ気づかなかった』
『遅れた、ごめん』
タイミングよく慎之介と弥彦が来てくれて、謎の気不味さからは解放された。
「この時間でメニューについて話し合おうと思うんだけど、どのくらい時間空いてる?」
『オレは衣装着たとこまで見るつもりだから何時間でも』
『明日学校だし、十時までならいける』
『俺は日付け変わるくらいまでなら』
『いつまででもオッケ』
洋一だけ十時までか。慣れない服装で時間はかかるとは思うけど、さすがに三時間はかからないだろうし大丈夫か。
「了解。メニューなんだけど、この間俺と空で雰囲気ある喫茶店に視察行ってきたそれの写真から共有しとく」
ホストが許可した人だけが見られる一時的な会議用フォルダに写真をアップする。
店内の写真は他のお客さんもいたから遠慮したけど、メニュー表と注文した料理、案内されたテーブルに置いてあったドリンクのミニチュア模型は綺麗に残してある。
『あ、オレここ行ったことある。じゃがいもでしょ?』
『じゃがいも? それ店名?』
『そうそう。レトロな雰囲気だし、クリームソーダがメロン味だけじゃないんだよね。他に二種類くらいあったような? 二人はなに飲んだ?』
「俺がメロン、空はオレンジ。もう一つあったけどイチゴは飲んでない」
あそこのクリームソーダは美味しかった。一杯七百円超えでなければ通い詰めてしまうところだ。
「こんなイメージで進めたくてっていうのの参考になれば」
『土曜日に調理室予約してるんだっけ?』
「した」
『ならそのときにイメージに合いそうな食器類持ってくるよ。オレ、結構持ってるから』
発注は羽場先生の仕事だから、土曜の試作が終わったら出してもらおう。
『俺ピザトースト食ったことないんだけど、これなに入ってんだ?』
ああ、確か慎之介の家は和食家庭だったな。ジャンクフードよりも焼き魚が好きな中学男子が同じ俺以外にいたことに驚いたっけ。
「ピザソース、ピーマン、玉ねぎ、ベーコン……あとはコーンだ。アレンジして派生メニューを作るのもいいねって話はしたけど、一品だけでも十分だと思う」
『あ、アレンジなら僕作りたいのあるんだけど』
「なに? 弥彦」
『フレンチトースト。それなら自信ある』
ああ、それもいいな。
しょっぱい系があるなら甘い系があってしかるべき。
「メモに加えておく。フレンチトーストのレシピは弥彦に任せていい?」
『土曜日に持ってくる』
『これさ、フライパン使うなら教室でやるのキツくね?』
内装リーダーの洋一が自分の書いたメモを見ながら呟く。
確かにな……。焼きそばとかタコ焼きみたいにコンセントさえあれば作れる料理じゃないし、そこも含めて話詰めないと。
『中等部の校舎ちょっと調べたんだけどさ、特別室ってのがあって、そこだとドアの向こうがキッチンらしいんだよ』
「特別室?」
そんな場所あったっけ?
『広さは通常教室と同じで、家具は倉庫に置いてあるのを使っていいらしい。校長室とか職員室の近くだから誰も使いたがらなくて予約ねじ込み放題だった』
なるほど……。ってことは、別棟だな。
中等部は通常教室のある通常教室棟、部室のある部活動棟、特別教室と職員室のある特別棟の三つで構成されている。
特別室はその特別棟にあるらしい。
「そこって、当日までの一週間借りられたりする?」
『イケる。土曜日も借りとこか?』
「ああー……お願い」
『りょ』
この話、調理室借りる前に聞きたかったな……。
「宗介、終わりましたよ。カメラ持って来てください」
「ああ、わかっ………………悠人?」
ぱちぱちと目を瞬く。知らない女子から悠人の声がする……。
『マジか……』
『芸能人の本気すご……』
『…………可愛い』
反応した順に、洋一、晴人、慎之介。
「ほら、見惚れてないで。宗介はカメラマンですからね」
見惚れてない。驚いただけだ。
大体二時間半か。
プロ意識の高い悠人のことだから、全員の着付けにプラスしてこのレベルの化粧とヘアセットまでしたんだろう。
手際いいな。
「ああ、恋人の可愛さに倒れないでくださいね」
さすがの俺でもそんなことには……。
「……! かっ……」
わいい……。
「忠告したのに」
なった。


