お風呂から上がったタイミングで持ってきた着物用の下着に着替えた。
浴衣と一緒に買っておいたもので、阿部さんと月乃さんも同じものを持っていた。二人も浴衣用に買ったみたい。浴衣はズボンに比べて薄いし、下着のラインとか透けたら恥ずかしいもんね。
足袋をはいたらお座敷で、桐谷くんの着付け教室がスタート!
斎藤くんはついたての向こう側、宗介くんは居間で待機中。
わたしたちの後ろには、それぞれが着る予定の着物がハンガーにかけられている。
「まずは僕が見本を」
そう言った桐谷くんは服を脱いで下着だけになり、半袖っぽい服を引っ張り出した。目の前に畳んであるこれがそうかな。結構洋服に近い触り心地。
「これが下着の上から着る肌襦袢と裾除けです。肌襦袢はそのまま着て、裾除けはその下。紐は僕が結ぶので下着が見えないように押さえておいてください」
裾除けは肌襦袢の下にだから、先に下から履いた方がいいかな。
あ、これだけでも結構着物っぽいかも。
上は普通に……。あれ、どっちが前だっけ。正面から見たときにYの字になるのが正解だから……こっちかな?
「終わりましたか?」
「終わったよ!」
ついたての向こうに行って見ないようにしてくれた桐谷くんからの問いには、代表して阿部さんが答えた。
「ああ、肌襦袢逆ですね。こっちが前です。紐は腰を一周してこの辺で結びます。苦しくないですか?」
「大丈夫〜」
阿部さんの次は月乃さん、そしてわたし。
わたしは肌襦袢は逆じゃなかったけど、裾除けの位置がかなり高かったみたいで、そこを調整。
「胸下辺りに入れる補正についてですが、僕が補正具を持っていないのと凹凸が比較的少ない年齢なので省きます。が、本来ならした方が美しく見えるのでプライベートでいい着物を着るときにはやってみてください。次は長襦袢。スーツで言うところのワイシャツみたいなものです。正絹で申し訳ないですが」
ハンガーから白いツルツルした着物を下ろして袖を通す。
わたしのは衿が黄色い長襦袢だけど、阿部さんと月乃さんは別の色。着物の色に合わせて衿の色も変わるってことかな? 安全ピンでつけてあるみたい。
わっ、これ着心地すごくいい……!
「あ、牧野さん引っ張りすぎです。衣紋は拳ひとつ分くらい首から離さないと」
「エモン?」
「衣類の衣に、家紋の紋。衿の後ろ部分です」
ああ……! 確かに着物描くときちょっと離してるかも。
背中の部分をくっと引っ張って調整してくれた。
長襦袢の見え方とか衣紋とか、今まではなんとなくでサラッと描いてたけど今後は意識するようになりそう。
「そしたら締めるのでこの辺で押さえててください」
細い帯みたいなものが胸の下あたりできゅっと締められる。
余分なしわをなくして、裾と衣紋を確認。長襦袢まであっという間に着付けが終わった。
阿部さんと月野さん、斎藤くんも終わって、いよいよ着物。
わたしは真紅の着物だけど、こんなコントラスト強い色、似合うのかな……?
恐る恐る羽織ってみると、長い! 浴衣のときもこんなに長かったっけ?
「……やっぱり祖母のだと少し短いですね。これでも大きめのものを用意しましたが……」
これでも短いんだ……。そんなに長くてなにに使うんだろう。
その疑問は腰紐と、もう一回細い帯みたいなものを巻いたときに解消された。
なるほど、おはしょり用だったんだね。帯の下に出てるの描いたことある。
長襦袢と同じように衣紋を抜いて、帯を巻いてもらった。後ろだからどうなってるかはわからないけど手つきに迷いがなくて、慣れているのがわかる。
「髪はあとでやるのでとりあえずとかしておいてください」
「うん、ありがとう」
桐谷くんからクシを受け取って、ドライヤーでハネた髪を整えた。
「以上が、基本的な着付けです。そちらは貸し出しますので、十一月の本番までに長襦袢までは一人で着られるようになってもらえると助かります」
「はい!」
「オッケー。大体覚えたから大丈夫だと思う」
「了解!」
「が、がんばる……」
「本来この時間からの化粧は控えた方がいいですが、今日は特別です。撮影用にやっちゃいましょう」
はしに寄せられたローテーブルの上に置いてあったバッグを開けるとメイク用品がびっしり。
ブラシだけで一体何本あるんだろう……。
「はじめます」
パウダーを顔だけでなく、首や手の甲、耳にまで。着物は白っぽいメイクの方が似合うみたいで、顔の白さが不自然にならないようにするための工夫らしい。
あとは控えめなアイラインをシャープめに入れて切れ長美人にするとか、チークやハイライトみたいに顔が立体的に見えるメイクは避けて、平面を意識するとか。
一人で着物メイクするときのポイントを色々と教えてくれながら、髪型までセットしてくれた。全身鏡で完成形を見ると、わたしの要素を残しつつ真紅の着物に似合う顔になっていた。
わたしもパキッとしたカッコいい色も似合うようになるんだ……。メイクすご……。
しかもわたしの知らない三つ編みアレンジまでしてくれた……!
これどうなってるんだろう……。
「どうしました?」
「あ、これってどうやったのかなって」
「右の毛先を左の耳後ろでとめて、左の毛先を右の耳後ろでとめただけです。牧野さんが普段やっている三つ編みより少し緩めに編んでますけど、特別なことはやってません」
そ、そんな簡単に!?
「自分でアレンジ出来ない髪型だと、プライベートで着るときに困るかと思いまして」
「ありがとう……!」
「お気になさらず。今回は編みで揃えてみました」
阿部さんは編み込みハーフアップで毛先が外側に巻かれていて、月野さんは前髪と横髪を片編み込みして低い位置でツインテールにしていた。
月乃さんは内巻きのくせ毛だから、毛先がくるっと内側に向いててすっごく可愛い! 阿部さんのハーフアップも似合ってる!
髪がわたしたちよりも短い桐谷くんと斎藤くんは、片側を編み込んで耳にかけたアシメヘア。とてつもない美少女お姉さんが誕生していた。
「崩れないうちに写真を撮るので一人ずつそこに立ってください。最初は椋からです。僕はカメラマンを呼んできます」
フリルのついたエプロンを渡された斎藤くんは「これ、どう着るの?」と一番詳しそうな阿部さんに助けを求め、堂々と撮影用ライトが当たる場所に立った。
女装の話が出た瞬間は乗り気じゃなさそうだったけど、実はそんなにイヤじゃないのかな?
初等部でも斎藤くんと同じクラスだった月乃さんにコッソリ聞いてみたら、笑われるのがイヤなだけで、本気でやるならネタになるからなんでもノリノリらしい。
さ、さすが小説家……。全てをネタにするプロだ。新作は女装する男の子が出てきたりするのかな?
わたしも自分に似合わないかもとか言ってないで、なんでも絵の勉強になるかもって挑戦しないと。
「……! かっ……」
声が聞こえて視線を向けると、真っ赤になった宗介くんと目があった。


