授業が始まっても、朝のことを思い出してしまう。
落としたことに気づいていなかった私の代わりに、蓮は拾ってくれていた。
昔から、そうだった。
忘れ物をすると教えてくれる。
落としたものがあれば拾ってくれる。
私が困っていると、いつの間にか近くにいる。
今までは、それを「蓮だから」と思っていた。
幼なじみだから。
ずっと一緒にいるから。
でも今は。
「……優しいな」
そう思う。
そして、その優しさが嬉しい。
休み時間。
廊下に出ようとしたとき、後ろから蓮が呼んだ。
「結菜」
振り返る。
「これ」
渡されたのは、朝に私が机の横に置きっぱなしにしていたハンカチだった。
「また忘れてた」
「あ……ありがとう」
「最近、忘れ物多くない?」
「そんなことないよ」
「昨日も消しゴム落としてた」
「それは……」
言い返そうとして、やめる。
蓮が笑っている。
「ちゃんと気をつけろよ」
「うん」
その一言が、妙に優しかった。
私はハンカチを握りながら、蓮の背中を見送る。
前から知っている。
蓮が優しいことくらい。
なのに今は。
その優しさを向けられるたびに、胸が苦しいくらい嬉しくなる。
