放課後になると、結菜はいつものように帰る準備を始めた。
教科書を鞄にしまい、筆箱を入れて、机の中を確認する。
その間にも、何度か教室の入り口を見る。
蓮はまだ来ていない。
今日は委員会があるらしく、少し遅くなると言っていた。
昨日の帰り道に聞いたことを思い出す。
だから、待つことにした。
別に急いで帰る理由もない。
ただ、待っていたかった。
それだけ。
教室に残っている生徒が少なくなるにつれて、校舎の中も静かになっていく。
窓から入る夕方の光が、少しずつ薄くなっていく。
結菜はスマホを眺めながら、蓮を待った。
待っている時間さえ、嫌ではなかった。
むしろ、蓮が来るまでの時間を少し楽しんでいる自分に気づく。
やがて廊下から足音が聞こえた。
顔を上げる。
そこに蓮がいた。
目が合う。
蓮は少し驚いたように目を瞬かせてから、結菜のところへ歩いてきた。
「待ってた?」
その声を聞いた瞬間、胸が温かくなる。
結菜は小さく頷いた。
蓮は何も言わずに笑って、自分の鞄を持ち直した。
その仕草を見ながら、結菜は思う。
――やっぱり、待っててよかった。
帰り道を並んで歩ける。
今日あったことを話せる。
明日のことも話せる。
そんな当たり前の時間が、今は前よりずっと大切に思えた。
結菜は隣を歩く蓮を見上げる。
そして、すぐに前を向いた。
また胸が騒がしくなったから。
最近は、蓮を見るだけでこうなる。
それが少し恥ずかしくて。
でも、嫌ではなかった。
