午前中の授業は、いつも通りに進んでいった。
黒板を写して、先生の話を聞いて、ノートを取る。
何も変わったことはない。
それなのに、休み時間になるたび、結菜の視線は自然と蓮のほうへ向かってしまう。
蓮は友達と話していることもあれば、席でスマホを触っていることもある。
時々、窓の外をぼんやり眺めていることもある。
そんな何気ない姿を見るのが、最近は少し楽しかった。
知らなかったことを知るたびに、蓮が少しずつ近く感じられる。
ゲームが好きなこと。
甘いものが好きなこと。
意外と負けず嫌いなこと。
笑うとき、少しだけ目元が柔らかくなること。
そして、自分のことを思っている以上によく見てくれていること。
今までなら、そんなことをわざわざ考えなかった。
幼なじみだから、知っていて当然だと思っていたから。
でも今は。
ひとつ知るたびに、もっと知りたくなる。
蓮が何を考えているのか。
どんなときに嬉しいのか。
何が好きで、何が苦手なのか。
自分が知らない蓮を、もっと見てみたいと思う。
そんなことを考えていると、蓮が席を立った。
廊下へ出ていく。
それを目で追ってから、結菜ははっとした。
また見ていた。
しかも、本人がいなくなったあとまで、その方向を眺めている。
「……私、何してるんだろ」
頬杖をついて、小さく息を吐く。
けれど。
その口元には、ほんの少しだけ笑みが浮かんでいた。
