次の日の朝。
教室に入った結菜は、いつものように自分の席へ向かいながら、何気なく教室の中を見渡した。
無意識だった。
誰かを探そうと思ったわけでもない。
それなのに。
視線は自然と、教室の後ろへ向かっていた。
――いない。
蓮の席はまだ空いている。
そのことに気づいた瞬間、ほんの少しだけ残念な気持ちになった。
「……まだ来てないんだ」
小さく呟いてから、自分でおかしくなる。
蓮がまだ来ていない。
ただ、それだけのことなのに。
どうしてこんなに気になるんだろう。
鞄を机の横に置き、椅子に座る。
友達と話しながらも、結菜は何度か教室の入り口を見てしまった。
そのたびに、違う人が入ってくる。
そして、何人目かの生徒が入ってきたとき。
見慣れた黒髪が視界に入った。
蓮だった。
その瞬間、胸の奥がふっと軽くなる。
自分でも驚くくらい、安心した。
蓮は友達と軽く挨拶を交わしながら、自分の席へ向かう。
その途中で結菜と目が合った。
ほんの一瞬。
蓮が小さく笑う。
結菜も笑い返す。
たったそれだけ。
なのに、朝から少しだけ気分がいい。
結菜は机の上に視線を落としながら、そっと頬を緩めた。
最近の自分は、本当に分かりやすい。
蓮がいるだけで嬉しくなる。
そんな自分に、少し戸惑っていた。
