家の近くまで来る。
いつものように、そこで足を止めた。
「じゃあ、また明日」
「うん。また明日」
蓮が先に歩き出す。
私はその背中を見送りながら、今日一日のことを思い返していた。
朝も。
昼も。
帰り道も。
何度も名前を呼ばれた。
そのたびに嬉しくなって。
そのたびに、もっと聞きたいと思ってしまった。
「……変なの」
小さく呟く。
蓮に名前を呼ばれることなんて、昔から当たり前だった。
なのに今は、その「当たり前」が少しずつ特別になっている。
私は自分の名前を口にしてみる。
「結菜……」
何も変わらない。
それなのに、蓮の声で呼ばれたときのことを思い出すと、胸がまた少しだけ騒いだ。
――もっと呼んでほしい。
そんなことを思ってしまった自分に、私は驚いた。
どうしてそんなふうに思ったのか。
まだ分からない。
ただ。
蓮に名前を呼ばれるたびに、私は少しずつ、今までとは違う気持ちになっていた。
