放課後。
教室を出ようとすると、蓮が私の鞄を持った。
「え、ちょっと。自分で持てるよ?」
「知ってる」
「じゃあ返して」
「嫌」
「なんで?」
「持ちたいから」
あまりにも自然に言うから、何も言えなくなった。
そのまま蓮は私の鞄を持って歩き出す。
「……今日どうしたの?」
「別に」
「なんか変だよ」
「昨日からずっと言ってるけど」
蓮が足を止める。
振り返った顔は、いつもより真剣だった。
「俺、そんなに分かりやすい?」
「え?」
「結菜には分からない?」
心臓が跳ねる。
「……何が?」
蓮はしばらく私を見ていた。
何かを言おうとしているのに、言葉を探しているみたいだった。
でも、結局小さく息を吐く。
「……いや」
「?」
「結菜って、ほんと鈍いよな」
「なにそれ!」
少しむっとすると、蓮が笑った。
「そういうところも好きだけど」
「……え?」
まただ。
その言葉に、今度こそ足が止まる。
「蓮、今……」
「行くよ」
「ちょっと待って」
追いかけようとすると、蓮は私を待ってくれた。
でも、さっきよりずっと近い。
「……俺、結菜のこと大事だから」
「うん」
「だから、もっと一緒にいたい」
「うん……」
「もっと俺のこと見てほしい」
最後の言葉だけ、少し低かった。
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
それでも私は、笑ってしまった。
「幼なじみだもんね」
その瞬間。
蓮の表情が、ほんの少しだけ曇った。
「……そういうことにしとく」
「?」
意味が分からない。
でも蓮は、それ以上何も言わなかった。
