泉の部屋の前を立ち去った廉は、世田谷の自分の部屋ではなく、父母のいる家の方へ車を走らせた。これからのことを一言、どうしても言っておかなければならない。これまでもそうだったが、自分の気持ちを変えるつもりはないと。泉とのことを認めないなら、自分も家に帰るつもりはない。
廉は家のガレージに車を入れず、塀に横付けして家の中へ入っていった。
「あら、ぼっちゃま」
家政婦の喜代子が突然戻ってきた廉に驚いて、玄関先で叫んだ。
「奥さまー!ぼっちゃまがお戻りです」
廉は喜代子の脇を抜けるようにして廊下に上がり、父母のいるリビングへ向かった。
「あらまぁ。どうしたの、こんな時間に。帰ってくるって言ってくれてたら、用意しておいたのに」
裕子は廉の姿を見て、そう言いながらキッチンへ行こうとした。
「お母さん、僕は何もいらないから。ここにいて、ちょっと話を聞いて」
廉は大きなソファに座っている父に向かって、リビングの入り口で仁王立ちになって言った。
「お父さん。前から言ってる通り、僕は家は継がないし、自分の好きな人と結婚する。河部を使って僕に干渉するのはやめてくれないか。これ以上何かやったら、場合によっては僕はUSへ戻る」
匡はそれを聞いて顔をゆがめた。
「おまえはアリオンがどうなってもいいのか。こんな大変な時期に。アリオンの従業員を路頭に迷わすつもりか」
「それを本当に考えなきゃいけないのはお父さんだったんじゃないの?僕はできる限りのことはしてるつもりだよ。僕に全てを任せるつもりがあるなら、僕のしたいようにさせてくれ。レグノを継がないからといって、別に会社を潰すつもりはないよ。ちゃんと立て直してみせる」
「じゃあ、おまえはレグノをどうしても継がないというのか」
「ああ。そのつもりはない」
廉は匡とにらみ合った。どちらも一歩も退かない。
「あの娘は、だめだ」
「それもお父さんには関係ないことだ」
匡はそれを聞いて、持っていたウイスキーグラスを床へ投げつけた。グラスが粉々に砕け散った。
「おねがいだから、やめてちょうだい!」
裕子が悲鳴をあげた。
「僕は僕の仕事を全うする。アリオンは立て直す。だけどそれだけだ。世襲で跡を継ぐなんて、今時、蘇ったミイラみたいなこと言わないでくれ」
廉はそう言い放って部屋を出た。
後ろから匡の「待て、廉!」という声が聞こえたが、廉は振り返らず廊下を戻って家を出た。
この家に戻ると、いつもこうなる。父は何もわかっていないし、聞く耳も持っていない。自分では何もできないくせに。
祖父の会社を、父も叔母も、結局うまくやっていくことができなかった。できなかったこと自体は悪いと思わない。けれど、その傾いたものを人に押し付けるようにして立て直させ、まして、自分の思い通りにしようなんて都合が良すぎる。
俺は親父の思い通りにはならない。
廉は乗る必要のない首都高に乗って、車をとばした。
廉は家のガレージに車を入れず、塀に横付けして家の中へ入っていった。
「あら、ぼっちゃま」
家政婦の喜代子が突然戻ってきた廉に驚いて、玄関先で叫んだ。
「奥さまー!ぼっちゃまがお戻りです」
廉は喜代子の脇を抜けるようにして廊下に上がり、父母のいるリビングへ向かった。
「あらまぁ。どうしたの、こんな時間に。帰ってくるって言ってくれてたら、用意しておいたのに」
裕子は廉の姿を見て、そう言いながらキッチンへ行こうとした。
「お母さん、僕は何もいらないから。ここにいて、ちょっと話を聞いて」
廉は大きなソファに座っている父に向かって、リビングの入り口で仁王立ちになって言った。
「お父さん。前から言ってる通り、僕は家は継がないし、自分の好きな人と結婚する。河部を使って僕に干渉するのはやめてくれないか。これ以上何かやったら、場合によっては僕はUSへ戻る」
匡はそれを聞いて顔をゆがめた。
「おまえはアリオンがどうなってもいいのか。こんな大変な時期に。アリオンの従業員を路頭に迷わすつもりか」
「それを本当に考えなきゃいけないのはお父さんだったんじゃないの?僕はできる限りのことはしてるつもりだよ。僕に全てを任せるつもりがあるなら、僕のしたいようにさせてくれ。レグノを継がないからといって、別に会社を潰すつもりはないよ。ちゃんと立て直してみせる」
「じゃあ、おまえはレグノをどうしても継がないというのか」
「ああ。そのつもりはない」
廉は匡とにらみ合った。どちらも一歩も退かない。
「あの娘は、だめだ」
「それもお父さんには関係ないことだ」
匡はそれを聞いて、持っていたウイスキーグラスを床へ投げつけた。グラスが粉々に砕け散った。
「おねがいだから、やめてちょうだい!」
裕子が悲鳴をあげた。
「僕は僕の仕事を全うする。アリオンは立て直す。だけどそれだけだ。世襲で跡を継ぐなんて、今時、蘇ったミイラみたいなこと言わないでくれ」
廉はそう言い放って部屋を出た。
後ろから匡の「待て、廉!」という声が聞こえたが、廉は振り返らず廊下を戻って家を出た。
この家に戻ると、いつもこうなる。父は何もわかっていないし、聞く耳も持っていない。自分では何もできないくせに。
祖父の会社を、父も叔母も、結局うまくやっていくことができなかった。できなかったこと自体は悪いと思わない。けれど、その傾いたものを人に押し付けるようにして立て直させ、まして、自分の思い通りにしようなんて都合が良すぎる。
俺は親父の思い通りにはならない。
廉は乗る必要のない首都高に乗って、車をとばした。

