放課後のジントニック、美術室の魔法

今頃彼は、現役の高校生として、泥だらけになってグラウンドを走っているのだろうか。それとも、机に向かって必死にペンを握っているのだろうか。
会えない時間が、彼を想う気持ちをいっそう純粋なものに変えていくのを、冷たいグラスの重みとともに感じていた。
それでも、金曜日になるとこの店へ来た。
航平くんがいなくなったからといって、私までここへ来なくなる理由にはならなかった。
ここで過ごした時間まで、なかったことにしたくなかった。
あの席に座って。
くだらない話をして。
仕事の愚痴を聞いてもらって。
時々、彼の少し生意気な言葉に笑って。
そんな時間が、私は好きだった。
今思えば。私はあの頃から、航平くんのことが好きだったのだと思う。
それが恋だと気づくまでに、少し時間がかかっただけで。
だけど、私はその気持ちを抱えたまま、彼を送り出した。
十七歳の高校生だった彼には、これから先、私の知らないたくさんの時間がある。
大学へ行って、友達ができて、新しい世界を知って、いつか、誰かを好きになるかもしれない。
その未来を、私が止めてはいけない。
だから、連絡先は消した。
ただ、あの日に自分で口にした言葉だけは、忘れなかった。
――待ってる。
それは、彼に私だけを見ていてほしいという意味じゃなかった。
いつか彼が、自分自身の足で私の前に立てるようになった時。
その時に、もう一度だけ会いたい。ただ、それだけだった。
私も私の時間を生きた。
学校へ行って、生徒たちと向き合って。
仕事に追われて、帰れば疲れて眠ってしまう日もあった。
友達と食事をしたり、休日に買い物へ出かけたりもした。
航平くんのことを考えない日だって、もちろんあった。
それでも、金曜日になると、私はあの店へ向かった。
カウンターに座ると、たまに隣の席を見る。
相変わらず、そこには誰もいない。
それなのに、なぜか航平くんが座っているような気がしていることはいつまで経っても変わらなかった。
『こんばんは、結衣さん』
あの声が、聞こえるような気がして。
私は小さく笑う。
そして、グラスを一口だけ飲む。
そんな日々を、私は過ごしていた。
それから、どれくらい経っただろう。
ある金曜日の夜。
私はいつものように、あの席に座っていた。
マスターがグラスを置く。