「うん、おはよう。大輝も」
夏海は小さく微笑んだが、その目はどこか遠くを見ているようで、俺の顔をまっすぐに見ようとしなかった。
「夏海、あの…土曜日は、本当に悪かった。急に。どうしても外せない用事ができちゃって。パフェの約束、また破る形になっちゃって……」
歩きながら言い訳を重ねようとする俺の言葉を、夏海は小さく首を横に振って遮った。
「ううん、いいよ、気にしないで。航平が私に言えないくらい、大事な用事があるのはもう分かったから」
夏海はスクールバッグの紐をぎゅっと握りしめた。その指先が、かすかに震えているのが見えた。先週「寂しい」と言って泣きそうになっていた彼女は、二回目となる今回の嘘で、責めることすら諦めてしまったような、そんな静かなトーンだった。
「ただ、本当に、毎週忙しいんだね。…もう、私の知らない航平になっちゃったみたい」
ポツリと、本当に小さな声だった。並木道を吹き抜ける秋の涼しい風に、そのまま消えてしまいそうなほどに。
夏海はそれ以上、俺は追求するようなことはしなかった。
胸の奥が、雑巾を絞られるように痛む。
小学校の頃から、泥だらけになって一緒にグラウンドを走ってきた幼馴染。俺の『嘘』を守るために、彼女にこんな諦めたような顔をさせている。その罪悪感が、澱のように胸の奥に沈んでいく。
「夏海、俺は別に――」
「あ、予鈴鳴っちゃう!先行くね!」
俺が言葉を紡ぎきる前に、夏海は無理に作ったような笑顔を浮かべ、逃げるように小走りで校門へと駆けていってしまった。
遠ざかる、揺れるスカートの裾と少し丸まった背中。
「……やれやれ」
大輝がこれ以上ないくらい静かにため息をついた。
校舎へと続く道を急ぐ生徒たちの中で、俺はただ、遠ざかる幼馴染の背中を見つめながら、立ち尽くすことしかできなかった。
結衣さんと過ごす眩しい魔法の時間。その代償のように、二回分の嘘が、俺のすぐ近くにある大切な日常を決定的に歪めてい流のを、俺は痛いほど実感していた。
***
朝の並木道での、夏海のあの寂しそうな顔。
五時間目の現代文の授業中、チョークが黒板を叩く音を遠くに聞きながら、俺はノートの余白にサッカーのフォーメーション図を書くフリをして、ひたすら悶々と頭を抱えていた。
(……いや、まさか。いや……)
夏海は小さく微笑んだが、その目はどこか遠くを見ているようで、俺の顔をまっすぐに見ようとしなかった。
「夏海、あの…土曜日は、本当に悪かった。急に。どうしても外せない用事ができちゃって。パフェの約束、また破る形になっちゃって……」
歩きながら言い訳を重ねようとする俺の言葉を、夏海は小さく首を横に振って遮った。
「ううん、いいよ、気にしないで。航平が私に言えないくらい、大事な用事があるのはもう分かったから」
夏海はスクールバッグの紐をぎゅっと握りしめた。その指先が、かすかに震えているのが見えた。先週「寂しい」と言って泣きそうになっていた彼女は、二回目となる今回の嘘で、責めることすら諦めてしまったような、そんな静かなトーンだった。
「ただ、本当に、毎週忙しいんだね。…もう、私の知らない航平になっちゃったみたい」
ポツリと、本当に小さな声だった。並木道を吹き抜ける秋の涼しい風に、そのまま消えてしまいそうなほどに。
夏海はそれ以上、俺は追求するようなことはしなかった。
胸の奥が、雑巾を絞られるように痛む。
小学校の頃から、泥だらけになって一緒にグラウンドを走ってきた幼馴染。俺の『嘘』を守るために、彼女にこんな諦めたような顔をさせている。その罪悪感が、澱のように胸の奥に沈んでいく。
「夏海、俺は別に――」
「あ、予鈴鳴っちゃう!先行くね!」
俺が言葉を紡ぎきる前に、夏海は無理に作ったような笑顔を浮かべ、逃げるように小走りで校門へと駆けていってしまった。
遠ざかる、揺れるスカートの裾と少し丸まった背中。
「……やれやれ」
大輝がこれ以上ないくらい静かにため息をついた。
校舎へと続く道を急ぐ生徒たちの中で、俺はただ、遠ざかる幼馴染の背中を見つめながら、立ち尽くすことしかできなかった。
結衣さんと過ごす眩しい魔法の時間。その代償のように、二回分の嘘が、俺のすぐ近くにある大切な日常を決定的に歪めてい流のを、俺は痛いほど実感していた。
***
朝の並木道での、夏海のあの寂しそうな顔。
五時間目の現代文の授業中、チョークが黒板を叩く音を遠くに聞きながら、俺はノートの余白にサッカーのフォーメーション図を書くフリをして、ひたすら悶々と頭を抱えていた。
(……いや、まさか。いや……)

