放課後のジントニック、美術室の魔法

約束の土曜日、午後二時。
九月の強い日差しを避けるように、駅から少し離れた住宅街の路地を進むと、緑豊かな蔦に覆われた古い洋館風のカフェが現れた。
テラス席には白いパラソルが広がり、微かに焙煎されたコーヒーの香ばしい匂いが漂っている。
「航平くん、こっちこっち!」
奥のテラス席から手を振る結衣さんの姿を見つけた瞬間、俺は自分の心臓が大きく音を立てるのを感じた。
今日の彼女は、先週の柔らかな雰囲気と共に昨夜のバーでの妖艶な黒とも違っていた。夏海に駅ビルで叩き込まれたカタカナの知識を総動員するなら、あれはきっと『ミントグリーンのブラウス』と『ホワイトパンツ』というやつだろうか。とにかく、大人の洗練されたお洒落の中に、どこか少女のような瑞々しさが見える。
いつもの『先生』の影はなく、一人の女性として俺との時間に臨んでくれているようなその姿に、俺の目は釘付けになった。
「結衣さん、お待たせしました。…すごく綺麗です。いつもと雰囲気が違って、びっくりしました」
俺がライトグレーのサマーニットの襟元を少し触りながら本音を口にすると、結衣さんは一瞬だけパッと頬を赤く染め、それから悪戯っぽく微笑んだ。
「ふふ、ありがとう。航平くんに子供っぽいって思われたくなくて、ちょっと頑張っちゃった」
子供っぽいだなんて、そんなわけない。俺の方こそ、正真正銘の子供なのに。
罪悪感が胸をチクリと刺したが、目の前で嬉しそうにメニューを開く彼女の笑顔を見ていると、その痛みの理由すらも甘美なものに思えてしまう。
「ここの自家製レモネード、すごく美味しいんだって。あ、でも、航平くんはやっぱりジンジャーエールかな?」
「いや、せっかくだから自家製レモネードにします」
運ばれてきた冷たい飲み物を前に、俺たちは言葉を交わした。
バーの薄暗い照明とは違い、遮るもののない昼の太陽光の下で見る結衣さんの肌はやっぱり驚くほど白く、その瞳は澄んでいた。
「……実はね、昨日の夜、航平くんをデートに誘った時、私、すごく心臓バクバクだったんだよ?」
結衣さんはストローを指先で回しながら、少し照れくさそうに視線を落とした。
「え、そうだったんですか?」