「今度はね、美術館じゃなくて…私が行ってみたい、すごくお洒落な隠れ家カフェがあるの。駅から少し離れてて、テラス席がすごく素敵で…。そこでまた航平くんと、二人でたくさんお話がしたくて」
結衣さんは一気にそう捲し立てると、恥ずかしさに耐えるように、でもまっすぐに俺を見つめ直した。
「……ダメ、かな?サークルとかで忙しかったりする?」
忙しいか、という純粋な問い。
それなのに、その言葉が耳に飛び込んできた瞬間、俺の頭の中には、放課後に「寂しかった」と泣きそうな顔をしていた夏海の姿と、昼休みに大輝が見せた静かな視線が、一瞬で引き戻された。
今週の土曜日は居残り練習を付き合って、あのパフェをもう一度食べに行くと約束したばかりだ。ここでそれを断れば、幼馴染たちとの日常は守れるかもしれない。これ以上、嘘を重ねて進むのは危険かもしれない。
だけど――。
目の前で、大人の女性であるはずの結衣さんが、まるで少女のようにまっすぐな瞳で俺の時間を求めてくれている。
シャツの奥で、心臓が爆発しそうなほどのビートを刻む。ここで手を伸ばさなければ俺は一生後悔する。高校生の俺の全細胞が、理性を消しとばして叫んでいた。
俺はジンジャーエールのグラスを置き、少しだけ声を低くして、大学生のトーンで、でも一文字ずつ確実に応えた。
「……ちょうどサークルも休みですし、僕も結衣さんともっと話して、もっと結衣さんのこと知りたいって思ってました。明日、喜んで行かせてください」
俺の言葉に、結衣さんは一瞬だけ不意を突かれたように目を見開き、それから、張り詰めていた肩の力をそっと向くようにして優しく微笑んだ。
結衣さんは少しだけ照れくさそうに視線を落とすと、自分のジントニックのグラスを掲げ、俺のジンジャーエールのグラスに、チリン、と甘い音を立てて軽く合わせた。
グラスの向こうで弾ける炭酸の泡を見つめながら、俺は押し寄せる幸福感と、背中を伝う冷や汗を同時に感じていた。
明日、俺はまた夏海との約束を破り、日常を裏切ることになる。
だけど、夕闇のようなバーの灯りの中でほっとしたように微笑む彼女を見つめながら、俺はこの眩しい魔法に、どこまでも溺れていきたいと願ってしまっていた。
結衣さんは一気にそう捲し立てると、恥ずかしさに耐えるように、でもまっすぐに俺を見つめ直した。
「……ダメ、かな?サークルとかで忙しかったりする?」
忙しいか、という純粋な問い。
それなのに、その言葉が耳に飛び込んできた瞬間、俺の頭の中には、放課後に「寂しかった」と泣きそうな顔をしていた夏海の姿と、昼休みに大輝が見せた静かな視線が、一瞬で引き戻された。
今週の土曜日は居残り練習を付き合って、あのパフェをもう一度食べに行くと約束したばかりだ。ここでそれを断れば、幼馴染たちとの日常は守れるかもしれない。これ以上、嘘を重ねて進むのは危険かもしれない。
だけど――。
目の前で、大人の女性であるはずの結衣さんが、まるで少女のようにまっすぐな瞳で俺の時間を求めてくれている。
シャツの奥で、心臓が爆発しそうなほどのビートを刻む。ここで手を伸ばさなければ俺は一生後悔する。高校生の俺の全細胞が、理性を消しとばして叫んでいた。
俺はジンジャーエールのグラスを置き、少しだけ声を低くして、大学生のトーンで、でも一文字ずつ確実に応えた。
「……ちょうどサークルも休みですし、僕も結衣さんともっと話して、もっと結衣さんのこと知りたいって思ってました。明日、喜んで行かせてください」
俺の言葉に、結衣さんは一瞬だけ不意を突かれたように目を見開き、それから、張り詰めていた肩の力をそっと向くようにして優しく微笑んだ。
結衣さんは少しだけ照れくさそうに視線を落とすと、自分のジントニックのグラスを掲げ、俺のジンジャーエールのグラスに、チリン、と甘い音を立てて軽く合わせた。
グラスの向こうで弾ける炭酸の泡を見つめながら、俺は押し寄せる幸福感と、背中を伝う冷や汗を同時に感じていた。
明日、俺はまた夏海との約束を破り、日常を裏切ることになる。
だけど、夕闇のようなバーの灯りの中でほっとしたように微笑む彼女を見つめながら、俺はこの眩しい魔法に、どこまでも溺れていきたいと願ってしまっていた。

