放課後のジントニック、美術室の魔法

「なんだよ。お前もやっぱり、真面目に部活しろとか、先生の言うこと聞けとか、そう言う正論言うわけ?」
彼は、俺が着ているサッカー部のジャージを見ながら、防衛線を張るように言葉を尖らせた。いかにも『体育会系の真面目な人間』に見える俺から、お説教をされると思ったのだろう。
俺は首を横に振った。
「いや。俺、サッカー部だから絵のことは全然わからないし。……ただ、その先生のことも知らないけどさ」
自分の心臓が、バレるかもしれないという恐怖で小さく震えるのを隠しながら、俺は言葉を紡ぐ。
「お前がそんなにムキになって怒ってるってことは、その先生に、自分の絵をわかって欲しかったからなんじゃないの」
「……は?」
彼は、拍子抜けたように目を見開いた。
「どうでもいい先生だったら、無視して美術室の隅で適当に書き飛ばせばいいんじゃん。わざわざ部活サボって、誰もいない暗いところで、死に物狂いみたいな顔して描く必要な意だろ。……お前、そのつまんない先生に、お前の『本当の絵』を見せて、驚かせたいだけなんじゃないのか」
「お前、何言って…」
彼は反論しようと口を開きかけたが、そのまま言葉を失ったように硬直した。
図星を突かれたのか、それとも他校の赤の他人にそんなところを見透かされたのが衝撃だったのか、彼の綺麗な瞳が激しく揺れている。
ピピーーーーーーーッ!
その時、グラウンドの方から、後半戦の開始を告げる鋭いホイッスルの音が響いた。
建物に遮れているはずのその音が、やけに明瞭に俺たちの間に割り込んでくる。
「あ…クソ、もう時間か」
俺はハッと我に返り、手に持っていた給水ボトルを握り直した。
これ以上ここにいたら、大輝や顧問に怪しまれる。
「じゃあな。驚かせて悪かった」
俺は背を向け、グラウンドへ走り出そうとした。だが、数歩進んだところで足を止め、振り返らずに声だけを投げかける。
「サボってこんなところで描いてるより、その凄い絵を美術室に持ってって先生の鼻明かしてやった方が、絶対にかっこいいと思うけどね」
それだけ言い残して、俺は今度こそ校舎の裏手から駆け出した。
急いでグラウンドへ戻ると、すでにメンバーはポジションについていた。俺はピッチへ滑り込み、大輝から「どこ行ってたんだよ」という視線を「後でな」と目で制した。
後半戦のホイッスルが鳴る。