「情けないほど、ガキだった」
愁は、少し間をおいてから続けた。
「アイドルとして生きていくって決めたくせに、それがどういうことなのか、全然わかってなかった。恋愛も。ただ突っ走るだけで、彼女との未来を背負う覚悟なんてできてなかった。」
愁の指が、カップの縁をなぞる。
「全部いいとこ取りできるって勘違いしてたんだ。でも、結局は全部中途半端だった。」
しばらく沈黙が続いた。
「メンバーにも申し訳なくて……」
愁は視線を落としたまま、静かに続けた。
「みんな怒ったよ。
正しく怒ってくれた。
それでも、最後にはもう一度隣に立たせてくれた。──Bright Directionを脱退することも考えたんだ。」
美咲は息をのんだ。
「ファンを裏切った。本気で信じてくれていた人たちを」
その中には、
確かに自分もいた。
愁は顔を上げた。
「それでも、まだ誰かの心を救える存在になりたかった」
十年前のテレビ画面。
あの日の歌声。
今も美咲の胸に残っている。
「また信じてもらえるまで、頑張ろうと思った」
気づけば涙が頬を伝っていた。
「あの頃……私も、確かに救われていたんです」
声が震える。
「あなたの笑顔に。声に」
愁がじっとこちらを見る。
「でも、報道が出たとき、それを全部否定してしまった。勝手に傷ついて、勝手に距離を置いて……」
涙を拭う。
「また、こうしてあなたの声を聞いて……信じたいと思ってる」
愁が驚いたように目を見開いた。
そして、そっとハンカチを差し出した。
その指先が、美咲の頬に触れる寸前で止まる。
「……また、泣かせてるね。」
「大丈夫です」
美咲は笑った。
「前とは違う涙だから。」
二人の間に、また長い沈黙が流れた。
でも、その沈黙は心地よかった。
十年前の傷を、少しずつ癒やしていくような時間だった。
コーヒーは冷め、夜は深くなっていた。
窓の外には、東京の明かりが瞬いている。
あの頃とは違う世界。
それでも。
二人は少しずつ、同じ場所を見つけ始めていた。
愁は、少し間をおいてから続けた。
「アイドルとして生きていくって決めたくせに、それがどういうことなのか、全然わかってなかった。恋愛も。ただ突っ走るだけで、彼女との未来を背負う覚悟なんてできてなかった。」
愁の指が、カップの縁をなぞる。
「全部いいとこ取りできるって勘違いしてたんだ。でも、結局は全部中途半端だった。」
しばらく沈黙が続いた。
「メンバーにも申し訳なくて……」
愁は視線を落としたまま、静かに続けた。
「みんな怒ったよ。
正しく怒ってくれた。
それでも、最後にはもう一度隣に立たせてくれた。──Bright Directionを脱退することも考えたんだ。」
美咲は息をのんだ。
「ファンを裏切った。本気で信じてくれていた人たちを」
その中には、
確かに自分もいた。
愁は顔を上げた。
「それでも、まだ誰かの心を救える存在になりたかった」
十年前のテレビ画面。
あの日の歌声。
今も美咲の胸に残っている。
「また信じてもらえるまで、頑張ろうと思った」
気づけば涙が頬を伝っていた。
「あの頃……私も、確かに救われていたんです」
声が震える。
「あなたの笑顔に。声に」
愁がじっとこちらを見る。
「でも、報道が出たとき、それを全部否定してしまった。勝手に傷ついて、勝手に距離を置いて……」
涙を拭う。
「また、こうしてあなたの声を聞いて……信じたいと思ってる」
愁が驚いたように目を見開いた。
そして、そっとハンカチを差し出した。
その指先が、美咲の頬に触れる寸前で止まる。
「……また、泣かせてるね。」
「大丈夫です」
美咲は笑った。
「前とは違う涙だから。」
二人の間に、また長い沈黙が流れた。
でも、その沈黙は心地よかった。
十年前の傷を、少しずつ癒やしていくような時間だった。
コーヒーは冷め、夜は深くなっていた。
窓の外には、東京の明かりが瞬いている。
あの頃とは違う世界。
それでも。
二人は少しずつ、同じ場所を見つけ始めていた。

